交差点内及びその手前での車線変更(進路変更)は道路交通法上許されているのか?

交差点内及びその手前での車線変更をした場合,道路交通法違反となったり,その結果として交通事故賠償上過失責任を問われたりするのでしょうか。

交差点内では一切車線変更をしてはいけないかのような認識の方がおられますが,そんなことはありません。

結論から先にいえば,原則として,交差点内及びその手前30m以内で車線変更をしたとしても,直接的に道路交通法に違反することにはならず,例外的に,交差点内及びその手前での車線変更を①追越し又は追抜きの形態で行う場合,又は交差点内及びその手前に②黄色実線による車線境界線が存在している場所で行う場合に限って道路交通法違反となるのです。

以下,この結論に至る理由を説明します。

なお,道路交通法上は,「車線変更」ではなく「進路変更」が正しい用語ですが,本稿ではわかりやすく一般に用いられる用語に即して車線変更と表記します。

また,交通事故損害賠償実務上は,具体的事故事例を別冊判例タイムズNo.38(全訂5版)に当てはめて適用する際に修正事由となるかという問題として使われます。

交差点という道路特性からの包括的規制は存在しない

大前提として,道路交通法上,交差点及びその手前という理由のみでの車線変更を直接規制する法律はありません

そのため,交差点内及びその手前であるというだけの理由による車線変更の規制がなされることはありません。

交差点付近での車線変更の個別的規制について

他方,別の要因において交差点内及びその手前での車線変更を禁止するという個別規制が存在します。

それが,以下の2つの場合です。

①交差点内での追越し・追抜き禁止から導かれる車線変更禁止

1つ目が,道路交通法上,交差点又はその手前30mの位置では,後ろの車両が,前の車両を追い越すこと及び追い抜くことが禁止されるという規制です(道路交通法30条3号,同38条3項)。

なお,追越し及び追抜きの概念は以下の図のとおりと解釈しますので,追越しでは必然的に,追抜きでは場合により車線変更を伴います。

そのため,交差点内及びその手前30mでの追越し及び追抜きが禁止されていますので,交差点内及びその手前30m以内の場所においては,追越し及び追抜きの前提となる車線変更が禁止されるとの結論が導かれます。

これが,交差点内及びその手前30mでの車線変更禁止の法的根拠となります。

道路交通法30条
車両は,道路標識等により追越しが禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては,他の車両(軽車両を除く。)を追越すため,進路を変更し,又は前車の側方を通過してはならない。
三 交差点(当該車両が第三十六条第二に規定する優先道路を通行している場合における当該優先道路にある交差点を除く。),踏切,横断歩道又は自転車横断帯及びこれらの手前の側端から前に三十メートル以内の部分。
道路交通法38条3項
車両等は,横断歩道等及びその手前の側端から前に三十メートル以内の道路の部分においては,第三十条第三項の規定に該当する場合のほか,その前方を進行している他の車両等(軽車両を除く。)の側方を通過してその前方に出てはならない。

②車線境界線が黄色実線の場合の車線変更禁止

2つ目が,交差点の手前に,黄色実線による車線境界線によって車線が区分されている場合には,この黄色実線をこえて進路変更をすることは禁止されるという規制です。

この場合には,追越しや追抜きでなくとも,交差点手前での進路変更は禁止されます。

なお,ここでいう黄色実線は,車線境界線のことをいい,車道中央線のことではないことに注意してください(車道中央線の黄色実線は,追越しの際のはみ出し禁止規制を意味しています。)。

参考論点:交差点手前の黄色実線の意味(黄色区画線は車線境界線の場合と車道中央線の場合では違う法規制です)

他方,車線境界線が白色実線・白色破線の場合には,追越し又は追抜きの際の車線変更は禁止されますが,単なる車線変更は禁止されません。

補足

以上より,交差点内及びその手前で車線変更をすることを直接規制されることはなく,個別的に規制されている①交差点内及びその手前30m以内において追越し又は追抜きの形態で行う場合,又は②黄色実線による車線境界線が存在している場所で行う場合のみ交差点内及びその手前での車線変更が禁止され,この①②以外の場合には,交差点又はその手前で車線変更をしたとしても,直接的に道路交通法に違反することにはならないのです。

もっとも,道路交通法は,後続車の進路を妨害する可能性がある場合に,前車の進路変更を禁止していますので(道路交通法26条の2第1項,2項),追越しや追抜きの場合でなくとも,車線変更をすることにより後続車の走行を妨害する可能性がある場合においては,車線変更をしたことによる過失を問われることはあり得ますので注意が必要です。

道路交通法26条の2
1  車両は,みだりにその進路を変更してはならない。
2 車両は,進路を変更した場合にその変更した後の進路と同一の進路を後方から進行してくる車両等の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは,進路を変更してはならない。

“交差点内及びその手前での車線変更(進路変更)は道路交通法上許されているのか?” への7件の返信

  1. 始めまして。web検索で「交差点内及びその手前での車線変更(進路変更)は道路交通法上許されているのか?」のページを知りました。

    お手数ですが、このページで以下の内容について教えていただけますと幸いです。
    「結論から先にいえば,追越し又は追抜きの形態で行う場合,又は黄色実線による車線境界線が存在している場所以外では,交差点内及びその手前30m以内で車線変更をしたとしても,直接的に道路交通法に違反することにはなりません。

    以下,この結論に至る理由を説明します。」

    で、「この結論に至る理由」が文章の中でどの部分を示しているかが理解できません。

     よろしくお願い致します。

    1. skraymond206@gmail.com

       わかりにくい文章で申し訳ありません。

       ご指摘箇所の理由は,交差点付近での車線変更の規制についての欄の全てです。

       具体的に言うと,道路交通法上,一般論として交差点内での進路変更は禁止していない(規制する法律がない)。
       もっとも,①交差点又はその手前30mの位置では,後ろの車両が,前の車両を追い越すこと及び追い抜くこと,②追越しや追い抜きでなくとも,交差点の手前に,黄色実線による車線境界線によって車線が区分されている場合には,この黄色実線をこえて進路変更をすることが個別に禁止されている。

       そこで,ご指摘いただいた結論(一般論としては規制されないが,前の①か②に該当する場合に限り交差点内での車線変更が禁止される)になるということです。

       この内容で,わかりますでしょうか。

  2. 記事の結論部分に、
    ②黄色実線による車線境界線が存在している場所で行う場合のみ交差点内及びその手前での車線変更が禁止され,
    とありますが、黄色実線が終わって交差点を全て通り過ぎるまでの間(黄色実線が終わり道路が交差している部分)では進路変更は禁止されていないはずではありませんか?
    黄色実線を超えて進路変更することが禁止なはずでは。

  3. 「交差点内及びその手前での車線変更を、黄色実線による車線境界線が存在している場所で行う場合に限って道路交通法違反となるのです。」は「交差点内」がおかしいです。

    交差点の手前が黄色実線で進路変更禁止であっても、交差点内の指導線という破線では進路変更禁止にはなりません。

    指定通行区分のある車線を走っている場合は、交差点内で指定以外の方向に進行すると指定通行区分の違反になります。

    交差点の手前が黄色実線で、同じ方向を指定した車線が複数ある道路を走行する場合、交差点内で車線変更しても、他の車両の通行を妨げない限り、違反にはなりません。

    実際、交差点内で黄色実線を引くと、「田」のような図柄になって大変危険で問題です。

  4. 下記の様な道路状況ではどの様に解釈したら宜しいのでしょうか?
    T字型交差点(Tの横棒)進行方向

    – T字型交差点、信号無し
    – 進行方向の左側(Tの縦棒)に三車線(進行方向一車線、反対車線:左折、右折の二車線)
    – (進行方向)交差点入口手前に約70mに渡ってZ(ゼブラ)ゾーンがあり、Zゾーン枠左は白色実線、反対車線側は黄色実線。
    – 交差点出口からは黄色実線
    – Zゾーンの周囲枠に沿ってラバーポールが数メートル毎に立っている
    – 交差点を挟んで入口、出口側の車線(3m)のセンターラインは黄色実線のはみ出し追越し禁止区間

    ①交差点内での追越し・追抜き禁止から導かれる車線変更禁止
    ②車線境界線が黄色実線の場合の車線変更禁止

    道路交通法26条の2
    1 車両は,みだりにその進路を変更してはならない。
    2 車両は,進路を変更した場合にその変更した後の進路と同一の進路を後方から進行してくる車両等の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは,進路を変更してはならない。

    このケースの場合、
    Q1後続車が交差点内での追越し違反?
    Q2前車が道路交通法26条の2の違反?
    (後続車が制限速度を15km以上超える、一部Zゾーン走行、追抜き/追越しには物理的に無理がある3m車線)

    宜しくお願い致します。

  5. この事例では交差点及びその30m手前からの進路変更について解説されてますが、追い抜き、追越禁止についても解説されてます。
    進路変更を車線変更と読み解いての解説ですが、横断歩道がない交差点、信号機で制御されてた交差点についても「追い抜き」は禁止されてるのでしょうか?
    『道路交通法30条
    車両は,道路標識等により追越しが禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては,他の車両(軽車両を除く。)を追越すため,進路を変更し,又は前車の側方を通過してはならない。』の前車の側方云々は同一車線に限るのではないでしょうか?
    例として、複数車線の交差点で第一車線に左折するため減速・徐行、場合によっては曲がった先の渋滞・歩行者横断等により停車していた場合、第2車線で左折する車より後方にいた車両は信号が青でも進めなくなってしまいます。
    先行する第一車線の車両が直進で、交差点先が渋滞により交差点手前で停車している場合でも良いです。第二車線の車両は追い抜き出来ないため交差点先が空いていても追い抜き禁止で進めなくなります。

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