【交通事故による後遺障害】脊髄損傷による麻痺

交通事故被害に遭って脊髄損傷を負ったために,不幸にも身体に麻痺を残してしまった場合,交通事故賠償上どのように扱われるのかについて,以下,見ていきたいと思います。

脊髄損傷について

脊髄は,脳の最下部にある延髄の下に続いている棒状の神経細胞と神経繊維の束であり,中心部の灰白質と周辺部の白質で構成され,それが内方から軟膜・クモ膜・硬膜の3つの膜で包まれ,さらにその外側を脊柱管に取り囲まれています。

そのため,強い外力によって脊柱が損傷した場合には,その中を通っている脊髄もあわせて損傷する可能性があります。

脊髄は,その位置によって,頸髄・胸髄・腰髄・仙髄に区分されます。

脊髄損傷が生じた場合には,脊髄損傷が生じた高位以下に,その損傷に応じた麻痺が発現します。

具体的には,頸髄損傷の場合には頸から下の部位に,胸髄損傷の場合には胸から下の部位に,腰髄損傷の場合には腰から下の部位に,症状が発現することとなります。

自賠責保険の脊髄の障害の認定基準

脊髄損傷による障害は,原則として脳の身体性機能障害と同様に,MRI・CT等の画像所見で明らかとなる器質的病変及び深部腱反射検査・病的反射検査・知覚検査・徒手筋力検査・筋萎縮検査等の神経学的所見によって裏付けられることができる範囲(四肢麻痺・対麻痺・単麻痺)とその程度(高度・中等度・軽度・軽微)によって等級が認定されます。生じた範囲による麻痺の分類

麻痺は,生じた部位によって,四肢麻痺(両側の四肢の麻痺),対麻痺(両下肢又は両上肢の麻痺),片麻痺(一側の上下肢の麻痺),単麻痺(上肢又は下肢の一肢のみの麻痺)に分類されます。

程度による麻痺の分類

また,麻痺は,その程度によって,高度の麻痺,中等度の麻痺,軽度の麻痺,軽微な麻痺に分類されます。それぞれの内容は,以下のとおりです。

(1)高度の麻痺

障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性がほとんど失われ,障害のある上肢又は下肢の基本動作(下肢においては歩行や立位,上肢においては物を持ち上げて移動させることができないもの)をいい,次のようなものが該当します。

①完全強直又はこれに近い状態にあるもの

②上肢においては,3大関節及び5つの手指のいずれの関節も自動運動によっては可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの

③下肢においては,3大関節のいずれも自動運動によっては可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの

④上肢においては,随意運動の顕著な障害により,障害を残した1上肢では物を持ち上げて移動させることができないもの

⑤下肢においては,随意運動の顕著な障害により,1下肢の支持性及び随意的な運動性をほとんど失ったもの

(2)中等度の麻痺

障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が相当程度失われ,障害のある上肢又は下肢の基本動作にかなりの制限があるものをいい,次のようなものが該当します。

①上肢においては,障害を残した1上肢では仕事に必要な軽量の物(概ね500g)を持ち上げることができないもの又は障害を残した1上肢では文字を書くことができないもの

②下肢においては,障害を残した1下肢を有するため杖若しくは硬性装具なしに階段を上ることができないもの又は障害を残した両下肢を有するため杖若しくは硬性装具なしには歩行が困難であるもの

(3)軽度の麻痺

障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が多少失われており,障害のある上肢又は下肢の基本動作を行う際の巧緻性及び速度が相当程度損なわれているものをいい,以下のようなものが該当します。

①上肢においては,障害を残した1上肢では文字を書くことに困難を伴うもの

②下肢においては,日常生活は概ね独歩であるが,障害を残した1下肢を有するため不安定で転倒しやすく,速度も遅いもの又は障害を残した両下肢を有するため杖若しくは硬性装具なしに階段を上ることができないもの

(4)軽微な麻痺

運動性,支持性,巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの,又は運動障害は認められないものの,広範囲にわたる感覚障害が認められるものをいい,以下のようなものが該当します。

①軽微な随意運動の障害又は軽微な筋緊張の亢進が認められるもの

②運動障害を伴わないものの,感覚障害が概ね1上肢又は1下肢の全域にわたって認められるもの

脊髄損傷による麻痺の後遺障害等級

脊髄損傷による麻痺の場合,麻痺の範囲,程度,介護の有無及びその程度により以下のとおりの後遺障害等級認定がなされます。

この点,脊髄損傷に通常伴う,脊柱の障害,膀胱直腸障害等については,脊髄の障害としてまとめて格付けされます。

したがって,脊髄損傷による障害に随伴して,脊椎固定術等による脊柱の障害,脊柱固定術等のための採骨による骨盤骨の変形障害,膀胱直腸障害等の胸腹部臓器の障害を残した場合でも,併合の取り扱いはなされません。もっとも,脊髄損傷に伴う胸腹部臓器の傷害や脊柱の障害による後遺障害等級が麻痺の範囲とその程度により判断される障害よりも重い場合には,それらの障害の総合評価により等級認定がなされます。

なお,軽微な麻痺については,麻痺ではなく,12級の神経症状としての認定がなされます。

四肢麻痺対麻痺単麻痺
1級①高度、又は

②中等度(常時介護)

①高度、又は

②中等度(常時介護)

2級①中等度、又は

②軽度(随時介護)

中等度(随時介護)
3級軽度(介護なし)中等度(介護なし)
5級軽度高度(一下肢)
7級中等度(一下肢)
9級軽度(一下肢)
12級軽微軽微軽微

補足

脊髄損傷合は,他覚所見と自覚所見との整合性,既往変性との関係,症状遅発等を理由として,脊髄損傷の存否自体を争われることが多い難しい障害といえます。

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