交通事故被害者が成年後見人選任を要する状態となった場合に加害者が負担する後見費用の範囲

交通事故により被害者の行為能力に障害が生じて成年後見人選任が必要となる事態が生じた場合,加害者は,被害者の成年後見人選任及び後見事務に関する一連の費用のうち,いかなる範囲でこれを負担しなければならないのでしょうか。

交通事故被害に遭われた場合に,損害賠償請求権を有するのは,交通事故被害に遭われた被害者本人です。

もっとも,交通事故被害に遭われた方が,不幸にも交通事故被害により意識が回復しない状態となってしまったり,事故を契機として認知障害を発現してしまったりした場合,当該被害者自身の行為によっては,確定的に示談合意・訴訟行為を行うことができなくなってしまいます。

そのため,交通事故被害に遭われた方が,前記精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況に該当してしまった場合には,法定代理人である成年後見人を選任し,同人によって被害者の代理人として示談合意・訴訟行為等を行わせる必要が生じます。

かかる成年後見人選任及び以降の成年後見事務は,交通事故により生じたものといえるため,交通事故により被害者に成年後見人選任が必要となる事態が生じた場合,加害者がそれに要する費用負担を負うことになります。

では,交通事故加害者は,被害者の成年後見人選任及び後見事務に関する一連の費用のうち,いかなる範囲でこれを負担しなければならないのか。以下検討したいと思います。

成年後見制度及び要する費用について

成年後見申立ての流れと要する費用

① 家庭裁判所へ成年後見申立て

法定費用(申立手数料800円,登記用収入印紙代2600円,予納郵券3000円~5000円)の納付とともに,添付書類の提出が必要ですので同取付費用が必要となります。

また,申立てについて弁護士委任をした場合,別途弁護士費用も必要となります(代理報酬額については15~20万円としている弁護士が多いと思います。)。

② 家庭裁判所の調査官による事実の調査

③ 精神鑑定

鑑定費用として5~10万円が必要となります。

④ 審判

申立書に記載した成年後見人候補者がそのまま選任されることが多いですが,場合によっては家庭裁判所の判断によって弁護士や司法書士等の第三者が選任されることもあります 。

また,成年後見人に加えて,成年後見監督人が選任されることもあります。

⑤ 審判確定・東京法務局に登記

法定後見事務に要する費用

成年後見の審判が確定した後,成年後見人により,財産管理事務・身上監護事務・家庭裁判所への報告等(後見監督人が選任されている場合には,同人に対する報告等も必要。)がなされます。

そのため,以降,後見人報酬・後見監督人報酬が必要となります。

加害者が負担すべき成年後見に関する要する費用について

前記成年後見に要する費用のうち,加害者が負担すべきものは,以下のとおりと考えられます。

申立費用について(法定費用・添付書類取付費用・鑑定費用→加害者負担,弁護士費用→被害者負担)

①法定費用(申立手数料,登記用収入印紙代,予納郵券)→加害者負担

法律上,申立に必要な費用とされているため,全額につき,事故と相当因果関係が認められます。

②添付書類取付費用→加害者負担

法定されていないものの,いかなる書類を添付するかが裁判所の運用としてほぼ確立しており,申立があれば必ず必要となる費用といえるため,全額につき,事故と相当因果関係が認められます。

③鑑定費用→加害者負担

家事審判規則24条に基づく法定費用のため,全額につき,事故と相当因果関係が認められます。

④弁護士費用→被害者負担

後見開始審判は,争訟性を有しない甲類審判であり(家審9条1項1号,民法9条),また家庭裁判所において申立書のひな形やリーフレットを準備しており,申立弁護士に委任しなければ申立ができないと考え難いため,事故と相当因果関係を認めるのは困難です。

後見人報酬について(→加害者負担)

後見人は,後見開始審判があれば当然選任される機関であるため,後見人報酬相当額は,事故と相当因果関係が認められます。

具体的には,既に報酬決定がなされ支払われている場合はその金額,まだ1度も報酬決定がなされていない場合は家庭裁判所の「成年後見人等の報酬額のめやす」を参考にして決します。

なお,後見開始の審判は,本人の能力が回復した場合に取り消されることがありますが(民法10条),それ以外の場合には,成年被後見人(被害者)が死亡するまで後見事務が終了することはないため,同人の平均余命までの期間で認められます。

後見監督人報酬について(→加害者負担だが期間を限定)

後見監督人も,家庭裁判所が必要であることを認めて選任される機関であるため,後見監督人報酬相当額は,事故と相当因果関係が認められます。

具体的には,既に報酬決定がなされ支払われている場合はその金額,まだ1度も報酬決定がなされていない場合は家庭裁判所の「成年後見人等の報酬額のめやす」を参考に,管理財産が5000万円以下の場合には月額1万~2万円,5000万円以上の場合には月額2万5000円~3万円を目安とするのが一般的です。

もっとも,後見監督人は,後見人とは異なる臨時機関であり,また正当な事由がある場合には家庭裁判所の許可を得て辞任も可能であり(民法852条),裁判所も後見人に事務を任せても問題ないと判断すればこれを許可する例も少なくないため,本人が死亡するまで後見監督人の事務が継続するとは限らないことから,後見人の場合と異なり,報酬相当額として本人の平均余命までの期間分を認めるのは相当ではありません。

そこで,当該後見監督人が選任された理由を検討し,今後も後見監督人が引き続き事務を行う必要性が存在,後見監督人の選任が継続する蓋然性が高い範囲に限定して認められます。

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