【工場代車】交通事故加害者が被害者使用の工場代車代の賠償義務を負わない理由

交通事故加害事故を起こした場合,被害者から,被害者運転車両の修理期間中,修理工場から工場代車を借りたので,その工場代車代を支払うようにと請求されることがあります。

もっとも,交通事故加害者は,交通事故被害者からの工場代車代支払請求に応じる必要はありません。

以下,その理由を説明します。

自動車有償賃貸はレンタカー事業許可が必要

わが国には,道路運送法という法律があり,同法80条1項により,誰かが自動車を有償で貸し渡すためには,道路運送法80条1項に定める許可(レンタカー事業許可)が必要であるとされています。

これには罰則規定もあり、レンタカー事業許可を得ることなく自動車の有償貸渡しを行うと、100万円以下の罰金の刑事罰が課されうる犯罪行為となります(道路運送法98条17号)。

すなわち,日本では,レンタカー事業許可を受けていない者は,有償で他人に自動車を貸し渡すことができないのです。

当然,修理工場もこの法律に服することになりますので,修理工場が,被害者に対して,被害車両の修理中に工場代車を提供したとしても,レンタカー事業許可を受けていない限り,被害者に対して工場代車代を請求することはできません

そのため,被害者が,工場代車を使用しても,修理工場に対して工場代車代支払い義務を負いません(工場代車使用は,被害者の損害とならない。)。

交通事故被害者が工場代車代の支払い義務を負うことがないため,被害者が加害者に対して,工場代車代の支払いを請求することもできません(このことは,仮に被害者と修理業者との間で,工場代車代の任意の支払い約束がなされていたとしても変わりはなく,加害者が同支払い義務を負わないことに変わりはありません。)。

なお、下級審裁判例の中には、民事法規と行政法規は別のものであるため、行政法規の規制は民事上の私的自治に影響を与えないとして、工場代車代を認定するものもありますが、この法律は行政法規の問題ではなく刑罰法規の問題であり、刑事上違法とされている行為について民事上の請求権を認めるのは明らかに誤りだと考えます。

工場代車代支払いの自動車保険実務

これに対して,実務上は,レンタカー事業許可を受けていない修理工場が工場代車を提供した場合,加害車両付保保険会社が日額3000円の限度で工場代車代の支払いをすることが多くみられます。

もっとも,法律的にみると,これは,工場代車代の支払ではありません。

加害車両付保保険会社が,工場代車代の支払いをすると,修理工場による違法行為の黙認となってしまいますのでその支払いはできないものの,他方で,加害車両付保保険会社が修理工場に対して工場代車代の支払いを全くしないとすると,工場代車代の支払いについて新たな紛争が生じてしまう可能性があるため(加害者が,被害者に責められる可能性がある。),保険会社において工場代車代についてあえてあいまいな解釈をして,慣習的に「謝礼金名目で日額3000円の支払いがなされる」実務運用がなされています

保険会社は,迅速な事案解決のため,法律上認められないものと知りつつ,別の名目を付することによって事実上工場代車代の支払いをしているというのが現在の損害賠償実務なのです。

無茶な工場代車代請求に対して

法律上の解釈は以上のとおりなのですが,実務上,以上を理解しない修理工場が,代車の相当性の観点から工場代車代が3000円というのはレンタカー代と比較して安すぎるので相当額の支払いをしろなどと保険会社や加害者本人にクレームを入れてくることがよくあります。

本稿を読んでいただければ,かかる主張がいかに法律を理解しない無茶苦茶なものかお分かりいただけると思います。

かかる主張は法律上認められないものですので,それに対して対応する必要はありません(そればかりか,法的手続きに至った場合には,1円たりとも支払う必要はありません。)。

このような無茶苦茶な主張に対しては,毅然とした態度で拒絶していただきたいと思います。

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