交通事故被害車両について,完全な修理が不可能なため機能や外観に欠陥が残存した場合の損害を,評価損(格落ち損)といいますが,交通事故被害車両が,ローン購入車両又はリース車両であった場合,この評価損の損害賠償請求権者は誰なのでしょうか?
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評価損の請求権者は原則として所有者(ローン会社・リース会社)
先の問いの結論を先にいうと,評価損請求権者は,ローンで購入した場合はローン会社,リースの場合はリース会社であり,いずれも所有者が請求権者となります。
その理由はシンプルです。
評価損とは,概念的にいうと,事故当時の車両価額と修理後の車両価額との差額(交換価値の低下)のことです。
物の交換価値を把握しているのはその物の所有者ですので,物が損傷してその交換価値が低下したことによる損害を被る者は,その物の所有者です。
したがって,交通事故により自動車の交換価値の低下については,その交換価値を把握している所有者,すなわちローンで購入した場合はローン会社が,リースの場合はリース会社が,これを有することとなるのです。
車両の使用価値を把握しているだけの使用者(ローンで購入した場合の買主,リースの場合のユーザー)は,評価損についての損害賠償請求ができないのが大原則です。
このことについては,残価設定型ローンの場合にも同様に当てはまると考えられています。
以上の点については,赤い本平成12年度版279頁以下詳しく記載されていますので,興味がある方はご参照ください。
例外的に使用者(ローン契約による買主・リースユーザー)に評価損の請求権を認めることができるか
評価損請求権者が所有者であることが大原則であることについては,前記のとおりですが,所有者と使用者との間において,評価損についての損害賠償請求権を使用者に帰属させるとの明示又は黙示の合意を認めうる場合には,使用者の評価損の損害賠償請求権を認定する余地はあります。
この点については,交通専門部である大阪地裁第15民事部においても,平成25年当時の裁判官の中には,使用者に評価損を帰属させることが可能であると考える裁判官が複数存在したとされています(月刊大阪弁護士会2013年10月号・p19)。
実際,大阪地裁では,立替払契約による所有権留保車両について,留保権者が自動車の売り主ではなく立替払いを行った信販会社であるような場合には,信販会社は,当初から評価損についての損害賠償請求権を自己に帰属させてこれを行使することにさほど関心を持っていないことから,その権利行使を使用者に事実上ゆだねる意向を有しているといえことから,立替金完済前の段階であっても,取引上の評価損にかかる損害賠償請求権につき,使用者に帰属させ,使用者において行使するとの黙示の合意がなされているとして,使用者による評価損の損害賠償請求を認めた事例があります(大阪地判平成27年11月19日)。
終わりに
ローン購入車両・リース車両について,例外的に使用者(ローン契約による買主・リースユーザー)に評価損の請求権を認めた裁判例も存在しますが,ほとんどの裁判例は,大原則に基づいて評価損の請求権者は所有者(ローン会社・リース会社)としていると思われます。
比較的よく出てくる争点ですが,裁判官によって結論の変わりうる難しい争点といえます。
理論面も含めて,今後の裁判例の集積が待たれますね。
参考(交通事故被害車両が所有権留保車両の場合の請求権者の別)
なお,交通事故被害車両が所有権留保車両の場合の物的損害賠償の費目別の請求権者の別は以下のとおりです。参考にしてください。
①修理代:所有者及び使用者
理由→交通事故被害車両が所有権留保付車両であったの場合の修理代請求権者が「所有者及び使用者」である理由
②代車代:使用者
理由→被害車両が所有権留保付車両であった場合の代車代請求権者が「使用者」である理由
③評価損:所有者
理由→本稿