取調べとは(法律上の意味,取調官は取調室でドラマで定番のカツ丼を出すのか等)

刑事もののテレビドラマを見ていると,よく「取調べ」のシーンが出てきます。「落としの某」などと,ベテラン取調官にスポットを当てた演出がなされたりもしているようです。

本稿では,知っているようで良くは知らない取調べの基礎について説明したいと思います。

刑事事件手続きにおける取調べとは

取調べの意義

刑事事件手続きにおける取調べとは,捜査官が,某人に対して,適宜質問をして記憶を喚起して,供述を求める手続きです(実際には,有罪立証のための証拠化も含みます。)。

簡単にいうと,取調べとは,捜査機関における取調担当者(正式な官職ではありませんが,一般に取調官といわれます。被疑者を取調べるときの取調官は,業界的には「シラベカン」と呼ばれます。)が一般人に対して行うインタビューです。

すなわち,取調べとは,インタビュアーを捜査機関,インタビュイーを一般人とする質問に過ぎません。

そのため,刑事事件手続きにおいては,取調べという単語は,犯罪を犯したと疑われる被疑者に対してのみ用いられるものではなく,目撃者はもちろん,被害者に対して行われる場合であっても使われます。

また,被疑者に対して行われる際には,身体拘束をした上で無理やりに強制捜査として行われる場合であっても,任意の出頭によって任意捜査として行われる場合であっても,区別なく取調べと呼ばれます。なお,被疑者に対する取り調べを業界では一般に「シラベ」と呼んでいます。

なお,被疑者取調べについての定めた極めて重要な条文がありますので,以下紹介だけしておきます。

刑事訴訟法198条
1 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
2 前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
3 被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。
4 前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。
5 被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。

取調べ結果の証拠化

取調べは,捜査機関である警察・検察のいずれによってもなされうるのですが,話を聞いただけではその内容を使用できませんので,警察官調べは主に事件を検察官に送致するか否かを決定するために(当然,起訴・不起訴の判断,公判における証拠としても使用されます。),検察官調べは事件を起訴するかを決定し起訴する場合には公判で証拠として使用するために,最後に証拠化(書面化)されます。

取調べ結果の証拠化手続きは,被取調者の供述内容を書面に記載することによって行われるのですが,作成するのは,供述者である被取調者ではなく,インタビュアーである捜査機によって行われます。被取調者は,捜査機関が作成した書面に署名・捺印(印鑑がなければ指印)をするにすぎません。

この捜査機関によって作成された取調べ結果を証拠化した書面を供述調書といい,警察官作成の供述調書を員面調書(業界的には「KS」),検察官作成の供述調書を検面調書(業界的には「PS」)といいます。

供述調書の問題点

元々人の記憶とはいい加減なものであり,知覚・記憶・叙述の各段階で誤りが生じる可能性があります(正確に見ていなかったり,正確に覚えていなかったり,間違えて喋ったりしてしまう可能性があります。)。

それに加えて,供述調書は,捜査機関が聞き取った内容を整理して書面化するものですので,供述者に加えて捜査機関の知覚・記憶・表現の各段階で誤りが生じうるという2段階の誤りの危険があるものなのです。

さらに言えば,捜査機関は,裁判上,捜査機関側に有利になるような情報を聞き出し,有利になるように聴取内容をまとめ上げ,有利になるような記載方法で調書を作成していきますので,調書は捜査機関の作文であるとの批難を受けることとなります。

そのため,供述調書については,法律上,裁判で証拠として扱えるか(任意性判断),また証拠として扱えるとする場合にはその信用性はあるのか(信用性判断)について厳しい制限が課されています。

取調べの際にかつ丼はでるのか(閑話休題)

古いドラマや映画などでは,取調べの際に取調官のポケットマネーで出前のカツ丼がふるまわれたりする場面が散見されます。

また,被疑者が,取調官に対し,「刑事さん,たばこ1本下さいよ。」などと言って,警察官の胸ポケットに入ったたばこを1本貰い受けて吹かす場面を見たこともあります。

しかし,実際の取調べの際に,カツ丼が出たり,たばこを1本貰い受けるなどということは絶対にありません(昔のことは知りませんが,現在ではあり得ません。)。

なぜなら,そのようなことをしてしまうと,被疑者を説得して折角しゃべらせた供述について,カツ丼を食べさせて貰ったから・煙草をもらったから(利益供与を受けたから),やってもいないことをやったと供述してしまったんだとの反論を許してしまうことになり,供述の結果を記録した供述調書の任意性・信用性が疑われる事態に発展してしまうことにつながりかねないからです。

取調官に利益供与の意図がなくても,また被疑者に利益供与を受けたとの認識がなくとも,弁護人は,公判において必ずこの利益供与の事実を追求します。

担当取調官としても,そのような非難を受けることは本意ではないでしょうから,現在ではこのような利益供与を疑われることは一切なされなくなっています。

そのため,取調べが長時間に亘る場合であっても,お茶も出ません…

参考にしてください。

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