お仕事をされている方の中では,同じ会社に勤める上司・部下・同僚の運転する自動車で移動することがよくあると思います。
当然ですが,同じ会社に勤める人物の運転する自動車に乗車中にも一定の割合で交通事故が発生します。
もっとも,同じ会社に勤める人物の運転する自動車に乗車中に交通事故に遭った場合,「同じ会社に勤める人物の運転する自動車」の自動車保険契約に基づき対人保険金が支払われることはありません。
本稿では,なぜそのようなこととなっているか,その場合にどうしたらよいのかについて簡単に説明したいと思います。
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結論に至る形式的理由
言うまでもありませんが,自動車保険契約は,自動車保険会社と保険契約者との契約であり,その契約内容は当該自動車保険会社の保険約款により定められています。
そのため,保険適用の有無(この場合には,対人保険金保険金支払いの有無)についても当該自動車保険会社が作成した保険約款の規定に従うこととなります。
この点,多くの(全ての保険会社を網羅したわけではありませんが,当職の経験では例外的な保険会社は見たことがありませんので「全ての」の可能性が高いと思います。)保険会社の自動車保険約款・対人賠償責任条項では,「被保険者の業務に従事中の使用人」及び「被保険者の使用者の業務に従事中の他の使用人」に対しては対人保険金の支払いをしないと規定しています。
そのため,同じ会社に勤める人物(上司・部下・同僚)の運転する自動車に乗車中に交通事故に遭った場合,「同じ会社に勤める人物の運転する自動車」の対人保険金が支払われないとの結論に至るのです。
結論に至る実質的理由
では,なぜ同じ会社に勤める人物(上司・部下・同僚)の運転する自動車に乗車中に交通事故に遭った場合,「同じ会社に勤める人物の運転する自動車」の対人保険金が支払われないのでしょうか。
その理由は,一般的には,同じ会社に勤める人物の運転する自動車に乗車しているという事は,通常当該会社の業務に従事しているということであり,この業務使用の場合には,当該業務者には一定の被災可能性があるところ,当該危険に遭う可能性についての賠償は労災保険に委ねることとし,自動車保険契約・対人保険契約の対象から除外するためであると解されています(横浜地裁川崎支昭和55年2月14日・交民集13巻1号207頁同旨)。
填補方法
以上のとおり,同じ会社に勤める人物(上司・部下・同僚)の運転する自動車に乗車中に交通事故に遭った場合には労災保険を使えるため対人保険金の支払いが不要であるとされているのですが,労災保険金給付額は,一般的に自動車保険契約の対人保険金積算額よりも低額となるため,ほとんどの場合,同じ会社に勤める人物(上司・部下・同僚)の運転する自動車に乗車中に交通事故に遭った場合,「同じ会社に勤める人物の運転する自動車」の対人保険金が支払われないとすると,その損害填補額は十分な金額となりません。
そこで,これを填補する手段が必要となり,一般的には以下の方法が考えられ得ます(実は,この他にもいくつか填補方法があるのですが細かくなりすぎますのでここでの紹介は割愛します。)。
ご不明な点がありましたら,お近くの弁護士にご相談ください。
① 「相手方車両」の運転者(又は同車両付保保険会社の対人保険)に対して請求する
② 「同じ会社に勤める人物の運転する自動車」の人身傷害補償特約金の請求をする
③ 勤務先に使用者責任として賠償請求する