少し前の話ですが,私が担当した事件の関係で,東京の所有権者の方から,大阪在住の方に,不動産の売却がなされることとなりました。
このとき,売主側の司法書士費用をどうするかで,小さなトラブルが生じることとなりました。
良くある話だと思うのですが,ほとんどの弁護士は知らない内容だと思いますので,そのトラブルのいきさつを紹介したいと思います。
【目次(タップ可)】
不動産売買の際の登記権利者・義務者の別
不動産の移転登記についての手続き等を規定する不動産登記法では,権利に関する登記の申請は,法令に別段の定めがある場合を除き,登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならないと規定されています(不動産登記法60条)。
この点,売買に基づく所有権移転登記も権利に関する登記ですので,不動産の売買契約が成立したことにより,売主から,買主に,不動産の所有名義の移転登記を行う場合には,原則として,登記義務者たる売主と,登記権利者たる買主とが,共同して登記申請をしなければならないのです。
この不動産登記自体は,法律上は自分で行ってもいいことになっているのですが,実際には,司法書士に依頼することがほとんどです。
そして,司法書士に依頼する場合には,売主側と買主側で,同じ司法書士に依頼することもできますが,それぞれ異なる司法書士を依頼することもできます。
ところが,不動産を売買する際に,売主側と買主側とで異なる司法書士を依頼した場合に,売主側の司法書士の費用負担のルールが,東京と大阪で違うのです。
皆さんは,ご存知でしたでしょうか。私は知りませんでした。
売主側司法書士費用負担の大阪ルール
大阪では,不動産を売買する際に,売主側と買主側とで異なる司法書士を依頼した場合,売主側の業務を行う司法書士と,買主側の業務を行う司法書士とが,共同にて登記申請を行います(便宜上1人の司法書士が担当することもありますが,それぞれから個別に依頼を受けています。)。なお,実際の申請行為は,売主側の司法書士から,買主側の司法書士に委任状を渡して,復代理にて行われます。
そのため,大阪では,売主側と買主側とで異なる司法書士を依頼した場合,売主側司法書士に対しては,その費用を売主が支払い,他方,買主側司法書士に対しては,その費用を買主が支払う運用をしているようです(以下,便宜上「大阪ルール」といいます。)。
売主側司法書士業務を売主側司法書士が行っているのですから,売主が費用負担するのは当たり前との考え方です。
報酬の目安は,登録免許税を除いて,売主側司法書士報酬が2万円くらい,買主側司法書士報酬が10万円弱ぐらいだと思います。
私は,大阪で業務を行っているので,この大阪ルールを理解していましたのが,不勉強のため全国的にこの大阪ルールで司法書士業務が行われていると思っていたのです。
ところが,東京の運用は違いました。
売主側司法書士費用負担の東京ルール
東京では,不動産を売買する際には,売主側と買主側とで同じ司法書士に依頼して(買主側司法書士?),かつその司法書士費用を全て買主が負担することになっているらしいのです(以下,便宜上「東京ルール」といいます。)。
そのため,東京では,売主側と買主側とで異なる司法書士を依頼するということが起こらず,売主側分の司法書士費用についても,その費用を買主が支払うこととなっています。
登記名義を得るメリットを享受するのは専ら買主ですので,売主側分の司法書士費用も買主が負担をするのが当たり前との考え方らしいです。
私には,売主側司法書士の業務であるはずの売主の本人確認・意思確認・売主側登記関係費用作成についての費用を,買主が負担する理由がよくわからないものの,東京では,かかる買主負担のルールで運用されているようです。
大阪と東京のルールの違いにより生じた問題
この大阪ルールと東京ルールの違いにより,私の関与した案件で問題が発生しました。
具体的にいうと,東京の所有権者の方から,大阪在住の方に,不動産売却をするという事案で,売主側司法書士費用の負担者が問題となったのです。
どういうことかというと,東京ルールで不動産売買が行われる東京では,売主側司法書士がいないため,売主・買主の双方に関する司法書士業務は買主側司法書士が行うこととなり,その費用も買主が負担することとなります。
要するに,東京ルールだと,売主側には司法書士が存在せず,その結果売主が司法書士費用を払うこともないのです。
他方,大阪ルールでは,売主側の司法書士業務は売主側司法書士が行うべきであるため,買主が,売主側司法書士費用を払うことはないのです。
その結果,東京の所有権者の方から,大阪在住の方に,不動産の売却がなされたこの事案では,誰かが売主側司法書士費用を支払うべきであるにもかかわらず,東京ルールの売主は売主側司法書士費用を支払わず,また大阪ルールの買主もまた売主側司法書士費用を支払わないこととなったため,売主側司法書士費用を負担する人がいなくなってしまったのです。
売主側司法書士費用は2万円程度の話なので,高額の不動産売却価額からすると,小さな話ですが,私は,この東京ルールと大阪ルールの違いを知らなかったため,決済直前になって,買主側の司法書士から,このルールの違いを聞かされて売主側司法書士業務を行う人がいないことが判明し,困ってしまったというのがその経緯です。
この案件の場合,最終的には,売主側に,大阪ルールで決済してほしい旨のお願いをして費用負担の了承をいただいたため,円満にまとまりましたが,売主側に頑として拒否された場合は,弁護士報酬から売主側司法書士費用を填補するか,買主側司法書士の先生に事情を説明して売主側司法書士費用なしに売主側司法書士業務もあわせてやってもらうことをお願いしなければならなかったのではなかろうかと思います。
実際,東京の売主から,大阪の買主に不動産が売却されるなんていうのはよくあるで話しょうから,実際にはどのように運用されているのか気になります。
誰か,知っている人がいれば教えて下さい。
不動産売買に従事している者です。
司法書士の本人確認はなんのために行うかですね。
売主が持ってきた印鑑証明書、権利証、実印、それぞれが本物かどうかを買主の代理人として確認することにあると思います。
売主側の司法書士って何をするのでしょうか?
必要書類を確認して、買主側司法書士に渡すだけでしょうか?
そして、買主側司法書士は売主側司法書士から渡された必要書類を確認して、委任状などに買主が捺印すればよいわけで、売主側に司法書士がいないのが普通です。
売主の本人確認は誰がするかと言えば、買主の代理人である司法書士です。司法書士が立ち会うのはそのためですし、所有権移転に必要な書類を作成するのも買主側の司法書士です。
一般的な売買契約書には「所有権移転登記の申請手続きに要する費用は、買主の負担とする」と書いてありますので、登記費用は買主が負担するのが当然です。抵当権などがあれば抹消を買主側の司法書士に依頼して、その費用は売主が支払います。
買主側の司法書士立ち会い料の一部を買主が払えというのは聞いたことがありません
遠隔地の売主が物件所在地に来て、買主側司法書士の本人確認ができない場合は、売主が、指定する司法書士に必要書類を作成してもらい、その費用を売主が支払うのは当然と思います。
最初のコメントの最後のところ、売主と買主を間違えましたので削除してください。
不動産営業 様
貴重なコメントありがとうございます。
私は司法書士ではありませんので,司法書士の業務内容の全てを把握しているわけではありませんが,弁護士的な立場で不動産登記の本来的目的に立ち返って考えると,東京方式には疑義を抱いています。
売主の本人確認・意思確認は,どう考えても買主側司法書士がするよりも,売主が自ら司法書士を選任した方が確実と考えられるからです。
その意味で,ご指摘にありました,売主の本人確認を買主側司法書士が行うとすることには抵抗があります。
また,共同申請を原則とする以上,売主は登記義務者となりますので,この義務を果たすために行う事務処理費用を買主が負担する理由も明らかではありません。
どちらの方法が優れているとか,どちらかが違法であるというわけではないため,文化の違いといえばそれまでかもしれません。
また,私が関西圏で業務を行っていることから,私自身の意識が大阪方式に引っ張られているのかもしれません。
私の顧問先の不動産業者や,懇意にしている司法書士は,当たり前のように東京方式と大阪方式を使い分けていますが,機会があれば沿革等についても聞いてみたいと思いますので,いい話が聞けた場合には,記事に追加したいと考えます。
不動産営業です
買主が司法書士に依頼しないで所有権移転登記と決済を行う場合、売主は、買主に印鑑証明・権利証・買主に登記を委任する委任状と登記原因証明情報を渡せばよく、買主は売主に売買代金を渡して、買主が自分で登記申請書を作って申請すればいいだけの話。本人確認の必要はありませんし、法務局も要求していない。
買主は登記に必要な書類が揃っているのか自分で判断できないから司法書士に立ち合いと登記を依頼するわけです。
その時、司法書士は業務上、本人確認が義務付けられているわけで、買主が司法書士に依頼しなければ、売主の本人確認は不要のはず。売主の本人確認を求めるのは買主側の司法書士の都合によるものなので、売主側に司法書士をつける必要はまったくありません。
通常、仲介業者が売主買主の本人確認を契約時に行い、売主に決済に必要な書類を通知して、事前確認を行う場合もあります。買主が司法書士に依頼するしないは自由です。ただ、買主は登記申請書を作れない方がほとんどのため、司法書士に依頼します。売主の本人確認を買主側の司法書士以外の司法書士が行い売主から立ち合い料を貰おうというのは姑息な手段ですので廃止した方がいいと思います。
この記事大変参考になり、心強くなりました。この度、自己資金で不動産を買うことになりましたが、仲介業者がつけてきた司法書士の所有権移転登記の見積もりが、ばかばかしい程高いので、自分で移転登記に関する勉強をしていたところです。
司法書士さんを断るのは悪いかなと思っていましたが、ローンを組むわけでもないので、胸を張って自分で登記しますと言うつもりです。ありがとうございました。
不動産営業の方がいろいろと間違えていますので、コメントいたします。
上の不動産営業の方はたぶん東京の方法しか知らないように見受けられるので、これが当然だという意見になると思うのですが。まあ東京だけで営業活動をする限り共同代理というものに当たることはないと思いますので仕方ないかもしれません。
>一般的な売買契約書には「所有権移転登記の申請手続きに要する費用は、買主の負担とする」と書いてあります
それは一般的な契約書ではなく東京版の契約書です。関西その他の地域の契約書には「所有権移転登記の費用のうち、売り渡しに関する費用は売主、所有権移転にともなう登録免許税及び登記費用は買主の負担とする」と書いてあります。(FRKも宅建協会も全日もすべてそうなっています)
登記申請代理の件ですが、共同代理の場合(「京都方式」と呼ばれています)、売主への本人確認義務は一次的には売側の司法書士にあります。買側の司法書士は原則、売主へ直接の本人確認はしません(実際は売側の司法書士が確認しているのをチラチラ見ていますし、怪しければ売側の司法書士に断って確認します)。そういう意味では共同代理の場合、売側の司法書士のほうが責任は重いと言えます。
あと、本人確認というのは持ってきた書類が本物かどうかを確認することだとか義務だからやってるとかではありません。
目の前にいる売主と称する人間が本当に売主かどうかを確認しているのです。
委任状や本人確認書類その他はそれを証明するための資料です。
法務局は書類が揃っておればたとえ売主がニセモノでも登記は通ります。ですので、後からバレて売買契約が取り消しや無効となってもよいのであれば本人確認はされなくてもいいのではないでしょうか。リスクは全て買主側が負うことになりますので。
なお、一番多いのは高齢の親名義の不動産を子供が勝手に売却しようとするケースです。仲介業者もそれをわかっててやってるタチの悪いのもいますね。
本題にもどって、売主が東京の方の場合、抹消名変等がなければ私は売主側からは費用は頂いておりません。頂ける場合は喜んで頂きますが(笑)。
私はそれぞれの地域の慣習にケチをつけるべきではないと思っていますので、そのことに理由はなく「そういうものだ」という感じでやっています(他の先生は知りません)。
ちなみに、決済時の固都税の清算も関西は4月1日起算、関東は1月1日起算となっており、この部分も関東と関西で違います。
私達はいつも地面師を警戒しています。
売主側の司法書士を入れることで、何気ない会話で探り入れたり、予想外の質問ぶつけたりするんです。
金融機関も司法書士の本人確認を信じてからゴーサイン出すわけで、書類チェックだけしてるような司法書士は司法書士にあらずです。
ましてや買主側だけだと買主と司法書士がグルだとその時点で終わりますよ。