できちゃった結婚・授かり婚をした夫婦から産まれた子供の法律上の父親は誰か?

できちゃった結婚(できちゃった婚・授かり婚・でき婚)は,出産と結婚という二重のおめでたい出来事です。

ところが,日本では,いまだに「結婚→妊娠→出産」が正道であるというイメージが強く,未だに良くないイメージを持たれたりすることもあります。

このイメージはおいておいて,本稿では,できちゃった結婚の法的問題点,具体的には産まれてくる子の法律上の父親の立場について考えていこうと思います。

妻の夫が子の法律上の父となるための要件

子の父親について定めた民法の規定

結婚している夫婦間で産まれた子供は,両親が結婚しているという事実のみで,妻の夫である人ご妻から産まれて来た子の父親となる訳ではありません。

妻から産まれた子が,妻の夫の法律上の子となるためには,①妻が婚姻中に懐胎した場合(民法772条1項),又は②婚姻成立日から200日経過後又は婚姻の解消・取消日から300日以内に産まれた場合である必要があります(民法772条1項)。

そのため,法律上は,前記①又は②の要件を満たさない間に産まれた子は,妻と夫とが結婚していたとしても,またDNA鑑定等によって生物学上の血縁関係を証明したとしても,それによって妻の夫の法律上の子となる(言い換えれば,妻の夫が子の法律上の父親となる)ことはできません。

【参考論点】
子供の法律上の父親は誰か?法的父子関係は血縁・遺伝子とは無関係

でき婚の法律上の問題点

この点,夫婦間ではない男女においては,妊活している場合など極めて稀だと思いますので,当該男女の間に子供が出来たのではないかと疑問を抱くのは,多くが女性の生理が来なくなったり,お腹が大きくなってきてからであると思われます。

疑問を感じてから,検査やら病院に行くやらで,女性の妊娠の事実を確信するまで3ヶ月位は要するのではないでしょうか。

日本では,彼女が妊娠すると,責任をとって結婚するという文化があるようですので,妊娠が確定すると,責任をとって晴れて男女が結婚するに至るという場合が多いのではないでしょうか。いわゆる,できちゃった婚・でき婚・授かり婚です。

この点,妊娠期間を300日位と仮定し,また,彼氏がもの凄い責任感の強い男気に溢れた人であったために女性の妊娠発覚後すぐの妊娠3ヶ月位(120日位)で結婚したと仮定しましょう。

子供はこの男女の結婚の180日(300日−120日)後に産まれてきます。

これを前記の民法の規定に当てはめて見ましょう。

できちゃった婚で産まれた子ですので,夫婦が婚姻中に出来た子でないことは明らかです。

また,婚姻後200日を経過して産まれた子でもありませんので,民法772条2項で父と推定されることもありませんので,前述の2つのいずれにも該当しないのです。

そうすると,子供が出来たために急いで結婚したとしても,法律上,夫となる人は,子の法律上の父親とはなれないはずです。

そのため,本来であれば,出来ちゃった婚をしたほとんどの場合,子には法律上の父親は存在せず,また出生届の父欄は「空欄」で提出しなければならないはずなのです。

男性が,急いで結婚をしても無意味なように思えます。

でき婚で産まれた子の実務運用


前記の法律の規定を形式的に適用すると,子供の父親が不存在となり,子の福祉に大きな影響を及ぼします。

また,結婚している夫婦から産まれた子の父親が,夫ではないとすることは,世間一般の法感情を害することとなります。

この点について、立法(法律)での解決がなされませんでしたので,裁判所による法解釈で,この問題の解決がなされました。

すなわち,裁判所は,前記の厳しい法律上の父親要件を実質上緩和するために,前記の①妻が婚姻中に懐胎した場合(民法772条1項),又は②婚姻成立日から200日経過以内に産まれた場合(民法772条1項)でなかったとしても,妻となった者が,その婚姻前から夫となった者と「内縁関係にあり,その内縁関係の継続中にその夫によって懐胎し,その後適法に結婚した場合」には,たとえ婚姻の届け出とその出生との間に200日の期間が存しない場合であっても,出生と同時に,嫡出子たる身分を有する(妻の夫が法律上の父となる)として3つめの父親要件を作出をしました(大連判昭和15.1.23・民集19.54)。

この点,戸籍実務においては,形式的審査しかなされませんので,戸籍担当官は,子が母とその夫の婚姻成立日から200日経過以内に産まれた場合であっても,子の母とその夫に婚姻前に内縁関係が先行し,その内縁関係の継続中にその夫によって懐胎したかどうかを実質的に判断することができません。

そのため,子が母とその夫との婚姻成立日から200日経過以内に産まれた場合,母とその夫とが,婚姻に先行する内縁関係があったと主張するのであれば(実際には,出生届の父親欄に夫の名前が記載された場合には),これがあったのだと仮定して扱わざるを得ないのです。

その結果として,実務上は,出生届の父親欄に夫の名前が書けば,妻とその夫の婚姻日と出産との間に200日の経過がなくとも(そもそも,出生と婚姻成立日までの期間を考慮することなく),妻の夫が,子の父親となることが出来るようになったのです。

なお,できちゃった婚であり,かつ夫との婚姻日と出産との間に200日の経過がない場合には,母親は,先行内縁を否認して,出生届の父親欄を空欄とすることによって夫を子供の父親ではないこととすることもでき得ます(あえてそんなことをする人はほとんどいないと思いますが・・)。

以上ができちゃった婚の場合の,産まれきた子供と父親との関係に関する問題点でした。

最終的には無難な結論に落ち着いていますが,理論的には結構無茶をしています。

参考にして下さい。

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