職場で部下に対してセクハラ行為をした加害者上司が負う3つの法的責任

勤務先において上司から部下に対する部下の意に反する性的言動があった場合(以下,「セクハラ行為」といいます。),かかるセクハラ行為をした上司は,責任追及をされたり,制裁を課されたりすることになり得ます。

では,セクハラ行為をした加害者である上司は,誰から,どの様な責任追及をされ又は制裁を課されるのでしょうか。

なお,セクハラ行為は,拒絶したり抗議したことをもって不利益な処遇をする対価型と,職場環境悪化に繋がる環境型があり,上司が男性で部下が女性の場合に限らず,上司が女性で部下が男性であっても発生し得ます。

女性上司の男性の部下に対するセクハラ行為は,マイケル・クライトン原作の小説で,マイケル・ダグラスとデミ・ムーア出演のハリウッド映画にもなった「ディスクロージャー」でも描かれており,実はそれ程珍しい話ではありません。

被害者からの責任追及(民事責任)

職場で,セクハラ行為があった場合,そのこと自体によって,直ちに,部下から上司に対して何らかの責任追及ができるということにはなりません。

セクハラ行為が,違法行為であると判断された場合に,初めて上司の行為がセクハラ行為となります。

この点,一般的に,セクハラ行為が,違法行為となるかについては,行為者である上司の地位・行為態様・年齢,被害者である部下の年齢・結婚歴の有無・行為に対する対応,両者のそれまで関係,当該言動が行われた場所,その言動の反復継続性等の各種事情を総合的に見て,それが社会的見地から不相当といえるかにより判断されます(なお,身体的接触行為の場合には,身体の部位・接触態様・程度,接触目的,行為の時間・場所,勤務中か否か等もあわせて考慮されます。)。

判断基準が結構抽象的であるため,人によって判断が分かれうる難しい問題です。

そして,前記基準によって,セクハラ行為が,違法行為と判断された場合には,加害者である上司は,被害者である部下に対して,不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになります(民法709条)。

その結果,被害者である部下は,加害者である上司に対して,被った精神的損害についての慰謝料請求という金銭請求ができ得ます。

なお,セクハラ行為によってやむなく勤務を退職するに至った場合には,慰謝料に加えて,本来受けるべき給与を基準とした逸失利益を算定して請求することも可能です。

当然の話ですね。

国からの責任追及(刑事責任)

また,セクハラ行為は,場合によっては刑事処罰の対象となります。

わが国には,セクハラ罪という構成要件は存在しませんので,セクハラ行為そのものとして罪責を問われることはありません。

もっとも,セクハラ行為は,その行った行為態様により,各種刑事責任を問われることとなり得ます(国から刑事責任を追及されることになります。)。

具体的には,身体的接触をした場合には,強姦罪(刑法177条),強制わいせつ罪(刑法177条),強要罪(刑法223条)等に,噂の流布や発言の場合には,名誉毀損罪(刑法230条),侮辱罪(刑法231条)等に,その他の行為の場合でも,軽犯罪法違反,条例違反,ストーカー規制法違反等に問われることがあり得ます。

所属企業からの責任追及・制裁

さらに,セクハラ行為を行った上司は,使用者(会社)から,企業秩序違反行為を行ったとして懲戒処分が課されることがあります。

労働者は,雇用契約上,使用者に対して企業秩序遵守義務を負っているからです。

就業規則にセクハラ行為を禁止しこれがあった場合には懲戒処分に付される規定をおいていれば,当該服務規程違反として,当然に懲戒対象となります。

また,就業規則にかかる規定をおいていなかったとしても,類似の懲戒事由に抵触する場合には,当該類似規定によって懲戒対象となり得ます。

補足

なお,男女雇用機会均等法に,平成11年に事業主に対するセクハラ防止配慮義務が課され,これが平成19年に措置義務とされたことにより(男女雇用機会均等法11条1項),同法や行政指針に違反する企業等については,行政指導がなされます。

また,加害者である上司のセクハラ行為について,被害者である部下に対して,使用者である会社・会社代表者が不作為による独自の不法行為責任を負ったり,職場環境配慮義務を怠ったとして債務不履行責任を負ったりすることもあります。

ご不明な点がありましたら,お近くの弁護士にご相談下さい。

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