交通事故に起因する損害賠償は,被害者が被った損害の賠償を加害者に対して請求するものですので,原則として,請求権者は損害を被った被害者本人に限定されるはずです(民法709条参照)。
もっとも,交通事故によってその被害者が死亡したり重度の後遺障害を負ったりした場合には,交通事故被害者本人のみならずその家族・親族も大きな精神的苦痛を被ることが容易に想像ができます。
そこで,法は,この被害者の親族自身が被る精神的損害についても一定の填補を得ることができるとしています。いわゆる近親者固有の慰謝料です。
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近親者固有の慰謝料請求権の根拠
まず,近親者固有の慰謝料請求権の発生根拠から考えていきましょう。
被害者が「死亡した」場合には,被害者の「父母・配偶者・子」には,当然に固有の慰謝料請求権が発生し,加害者にこれを請求できるとされています(民法711条)。
民法711条 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
また,被害者が死亡しなかったとしても死亡に比肩しうる重度の後遺障害を負ったにとどまる場合(最判昭和33年8月5日・民集12巻12号1901頁)や,被害者が死亡した場合の父母・配偶者・子以外の親族(最判昭和49年12月17日・民集28巻10号2040頁)については,民法709条・710条の要件充足を主張・立証することによって,固有の慰謝料請求権を加害者に請求でき得ます。
なお,民法711条の場合と,判例理論の場合とでは,その請求の要件と立証度に違いがあります。
近親者固有の慰謝料額の算定方法
では,前記の民法711条又は判例理論によって,近親者固有の慰謝料が認められる場合,近親者固有の慰謝料額はどのように算定されるのでしょうか。
被害者が死亡した場合
近親者固有の慰謝料額について,個別事情を考慮した上で個別の裁判官が自由に判断ができるとすると,その認定額に大きな差が出てしまい,交通事故損害賠償額の定額化志向の観点から必ずしも好ましいとはいえません。
そこで,被害者が死亡した場合の近親者慰謝料額については,原則として被害者自身の慰謝料額と近親者固有の慰謝料額とを合算し,死亡慰謝料基準額の範囲内で,これを両者で分け合うという考え方が一般的といえます。
被害者が重度の後遺障害を負った場合
前記の交通事故損害賠償額の定額化を志向するという意味では,被害者が死亡した場合と被害者が重度の後遺障害を負った場合とで違いはありません。
そこで,被害者が後遺障害を負った場合の近親者固有の慰謝料額についても,被害者が死亡した場合と同様に,原則として被害者自身の慰謝料額と近親者固有の慰謝料額とを合算し,後遺障害慰謝料基準額の範囲内で,これを両者で分け合うという考え方が一般的といえます。
もっとも,被害者が重度の後遺障害を負った場合には,近親者におけるその後の介護が必要となったりするなど,1回的な精神的被害といえる死亡の場合とは異なり,事故後の持続的・継続的な精神的・肉体的被害を近親者に生じさせます。
そのため,近親者固有の慰謝料額を,被害者本人の慰謝料額に含めて考えた場合,妥当ではない結論となる可能性が生じえます。
そこで,この点について大阪地裁・交通部では,被害者が重度の後遺障害を負った場合の近親者固有の慰謝料額については,原則として被害者の後遺障害慰謝料基準額に含まれるとしながらも,被害者に重度の後遺障害が認められる場合には,近親者固有の慰謝料額として,別途に算定することがあると考えています。
そして,その額については,近親者と被害者との関係,交通事故後の介護状況,被害者本人に認められた慰謝料額等の事情を考慮して定めるとしています。
参考にしてください。