民事訴訟における控訴審の審理対象は何か(民事第2審は法律上「続審」のはずなのに事実上「事後審」として運用される理由とは)

我が国では,憲法上裁判を受ける権利が保障され(憲法32条),また民事・刑事共に3審制が採用されていることから,同じ事件で3回裁判を受けることができ得ることはよく知られています。

もっとも,3度の裁判において同じ事実関係の検討や証拠評価を3度に亘ってしてもらえるのかというとそうではありません。

どういうことかについて,民事訴訟において控訴がなされた場合の,控訴審の審理対象を例に説明します。

民事控訴審の原則的な法律上の位置付け

民事訴訟においては,第1審及び第2審が事実審,第3審が法律審とされており,法律上,第2審が結審するまで,当事者は事実主張・証拠提出ができ得ます。

すなわち,民事訴訟手続きにおいては,第1審及び第2審の口頭弁論は一体とされており,民事訴訟における第2審では,第1審の主張・立証に加えて,控訴審で提出された新たな主張・立証とを基にして,事実・法律論についての審理・判決する(続審となる)のが法原則です。

関連論点:民事訴訟における控訴提起のやり方とは(控訴状の控訴の趣旨の書き方から控訴理由書の控訴審への提出期限まで)

この点については,刑事訴訟とは異なります。
刑事訴訟では,第1審のみが事実審で,第2審及び第3審は法律審とされていますので,第2審において事実主張をすることはできません。なお,裁判員裁判が1審のみとされている理由もここにあります。
そのため,刑事訴訟では,第1審判決後に行われる第2審では,第1審と第2審の主張・立証を基にして判断がなされるのではなく,第1審判決に対してなされた当事者の不服申立ての内容が法律的に理由があるのかどうかに限って審理・判決がなされます。
そのため,刑事控訴審は事後審と言われます。

民事控訴審の実務上の運用

以上のとおり、法律上は,民事訴訟における控訴審は続審とされていますので,第2審である控訴審において無条件に新たな攻撃防御方法を提出して,新たな事実関係・証拠関係についての争いを提起できることが出来るかのように見えます。

もっとも,これを無条件に認めてしまうと,各当事者が裁判所の心証に訴えようとして,重要な証拠を判決直前に提出するという訴訟活動が行われ,これによって,審理が長期化が発生し,訴訟を迅速に行おうとする法の趣旨(民事訴訟法2条)に反する結果につながる可能性が生じます。

そこで,法は第一審における民事訴訟法156条と同様の規定を控訴審においても規定して控訴審における攻撃防御方法の提出期限について裁判長がその期間を定めることができるとし(民事訴訟法301条1項),その上で,同期間後に攻撃防御方法の提出をしようとする当事者は,裁判所に対し期間内に提出できなかった理由を説明する義務が発生し(民事訴訟法301条2項),かかる理由の説明ができなければ控訴審における攻撃防御方法の提出は認められないとしました。

これにより,民事訴訟においては,第1審の時点で提出できた証拠については控訴審では提出できないこととなります。

その結果,民事訴訟における攻撃防御について第一審において審理を尽くさなければならないこととなりますので,民事訴訟においても,実質的にみると控訴審は第一審の事後審として機能することとなるのです。

終わりに

前述のごとく,民事訴訟においては,法律上は,第2審である控訴審は,第1審の続審であるとして,あたかも再度の事実認定がなされるかのようなイメージを持たれる方が多いと思いますが,そうではありません。

第1審が終了する時点で提出できたにもかかわらず,あえてこれを提出しなかった主張・立証については,第2審において簡単に提出することはできませんので,法は,攻撃防御方法につき第1審において提出することを原則としているといえます。

なお,第1審においても,攻撃防御方法は適切な時期に提出することが要求され(民事訴訟法156条),時機に後れた攻撃防御方法の提出は法の要件を満たす限りにおいて却下されます(民事訴訟法157条)。

控訴審は,控訴をした当事者が,控訴理由(控訴状に記載することもできますが,通常は控訴状提出後に,控訴理由書を別途提出することが多いです。)に主張・立証を記載して問題提起をし,控訴審では,この控訴理由を検討することが主たる検討内容となるのですが,以上の結果,第1審において審理を尽くした後に,第2審において第1審で提出しなかった新たな主張・立証を組み立てるのは簡単ではないため,民事控訴審では多くの場合にたったの1回で審理が終わり,多くの場合に第1審と同じ判決がなされる結果に終わります。

なお,本件についての問題意識については,旧司法試験の平成17年度の民事訴訟法第1問においても問題提起されています。

参考にしてください。

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