オービスの手前に速度取締機設置という告知看板が掲示されている理由とは

オービス(自動速度取締装置)が設置されている道路では,その直前に,「自動速度取締機設置区間」などという看板が設置され,車両運転車にその先にオービスが設置されていることが分かるようになっています。

速度違反を取り締まるためには,事前に取り締まりがある旨を明らかにしていれば意味がないのではないかと疑問に思いませんか。

ところが,法律上は,この告知看板には重大な意味があります。

どういうことか,以下説明します。

オービス(自動速度取締機)とは

告知看板の意味を知る上で,まずはオービスの本来目的を確認する必要があります。

オービスは,道路交通法に定める最高速度順守義務(道路交通法22条)に違反した速度超過車両運転者に有罪判決・刑事処罰(道路交通法118条1項1号,6ヶ月以下の懲役又は10万円以下の罰金)を科すためにあるのです。

交通事故を抑止するためドライバーに実勢速度を下げさせることを目的として設置されていると考えられる方もおられますが違います(違いますというのは言い過ぎで,その意味もないことはありません。)。

どういうことかというと,日本においては,人に刑罰を科すには「例外なく」刑事裁判手続きにおいて有罪認定される必要がありますので,そのために有罪認定のために捜査機関側において有罪立証(速度超過運転の事実立証)がなされる必要があります。

オービスは,この速度順守義務違反者に有罪判決を科すための速度超過の事実を立証(証拠収集)目的で設置されているのです。

オービスの法律上の問題点と最高裁判所の判例

ところが,オービスには,大きな問題点があります。

刑事裁判は,証拠によって事実認定がなされるのですが,違法捜査抑制の観点から,裁判の基礎となる証拠として用いることができるのは,適法に収集された証拠に限定されます(違法収集証拠排除法則)。

刑事裁判では,違法に収集した証拠は使えないのです。

この点,オービスは,被撮影者に無断で撮影するものですので,いわば盗撮です。

そこで,いわば盗撮された画像・動画を刑事裁判の証拠として使っていいのか,オービスで撮影された画像・動画を刑事裁判で用いることは違法収集証拠排除法則に反するのではないかが問題となるのです。

この点について,オービスで撮影された画像が肖像権・プライバシー権という憲法上の権利を侵害する違法なものであり,これを刑事裁判の証拠として使うことは許されないのではないかが争われた裁判があります。

同裁判では,最高裁判所は,速度違反車両の自動撮影を行う本件自動速度監視装置による運転者の容ぼうの写真撮影は,現に犯罪が行われている場合になされ,犯罪の性質,態様からいつて緊急に証拠保全をする必要性があり,その方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものであるから,憲法13条に違反せず,また,右写真撮影の際,運転者の近くにいるため除外できない状況にある同乗者の容ぼうを撮影することになつても,憲法13条,同21条に違反しないとし,オービスで撮影された画像を刑事裁判の証拠として用いることが許されると判示しています(最判昭和61年2月14日・ 刑集40巻1号48頁)。

実務上の対応について

以上のとおり,オービスで撮影された画像・動画を刑事裁判における証拠資料として使用できるということについては,最高裁判所の判例で認められていますので,実務上の決着はついています。

もっとも,これはあくまでも事案判例であり,今後,世論の高まり等によって判例変更の危険がないとは言い切れません。

そこで,そもそも論として,違法収集証拠排除法則に違反する(オービスによる撮影・証拠収集がプライバシー権・肖像権違反である)との争点を封じるため,ドライバーに事前告知をし,あらかじめ撮影する旨を伝えていたので,プライバシー権や肖像権を侵害することにはならないと抗弁するため,事前に「自動速度取締機設置区間」という看板が設置されているのです。

参考にしてください。

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