特別永住者・中長期在留者を始め,観光客なども含めると,日本には多くの外国人の方が居住・滞在しておられます。
居住・滞在されている外国人の方も,日本にいる以上,一定の確率で交通事故に遭う可能性があります。
では,外国人の方が日本で交通事故に遭った場合,どこの法律が適用され,紛争が発展した場合にはどこの裁判所で審理されるのでしょうか。
結論から先に言うと,原則として日本の法律が適用され日本の裁判所で審理されるのですが,いずれも例外があります。
そこで,以下,外国人が日本で交通事故を起こした場合の準拠法と裁判管轄について,その根拠を踏まえて簡単に説明します。
【目次(タップ可)】
外国人の日本での交通事故の準拠法
原則:日本の法律(通則法17条本文)
日本国内で発生した事故に起因する損害賠償に関する訴えは不法行為に基づく損害賠償請求権であるところ,不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は,加害行為の結果が発生した地(不法行為地)の法によるとされています(法の適用に関する通則法17条本文)。
そのため,日本国内で発生した事故に適用されるのは原則として日本の法律(民法)です。事後的に外国の病院に通ったり,交通事故により外国の勤務先で休業損害が発生したとしても,当該損害発生地の法律が適用されるわけではありません。
例外:外国の法律(通則法20条)
もっとも,以上を徹底すると当事者間に著しい不利益を生じさせる場合があります。
そこで,不法行為時に,当事者が法を同じくする地に常居所を置いているなど,諸般の事情に照らして明らかに結果発生地(不法行為地)よりも密接な関係がある他の地があるときは当該地の法律によるとされています(通則法20条)。
そこで,例えば,双方とも同じ国から観光に来ただけの外国人同士が日本で交通事故に遭った場合等では事故当事者の常居所の法によって判断される場合もあり得ます。
なお,余談ですが,外国人の相続に関する法律は当該外国人の本国法によりますので(通則法36条),外国人が日本で交通事故に遭って死亡した場合の債権債務の継承については日本の民法ではなく,当該外国の法に従うこととなりますので注意が必要です。
外国人の日本での交通事故の裁判管轄
原則:日本の裁判所で裁判
日本国内で発生した事故に起因する損害賠償に関する訴えは不法行為に基づく損害賠償請求権であるところ,この不法行為に関する訴えは,不法行為が日本国内であった場合には日本の裁判所に訴えを提起できるとされています(民事訴訟法3条の3第8号)。
この点については,当事者が日本人でも外国人でも変わりはありません。双方が外国人でも同様です。
そこで,外国人が日本国内で交通事故を起こした場合には,日本の裁判所が管轄権を持つ(日本の裁判所で審理される)こととなります。
例外:外国の裁判所で裁判の場合もある
問題は,日本の裁判所「だけが」管轄権を持つかということです。
事故当事者が国籍を有する本国の法律により日本での交通事故を本国の裁判所が審理できるとの規定がある場合には,当該国の裁判所も併せて管轄権を持つ(外国の裁判所で審理できる)場合があります。
この場合には,当事者は,日本の裁判所のみならず当該本国の裁判所にも訴え提起することができることとなります(そのため,いずれの国の裁判所が優先的に裁判権を行使するかという無駄な争いが生まれる余地があります。)。