日本の道路では,単車(二輪車)・四輪車のみならず,三輪車自動車も多数走行しています。
そのため,当然ですが,三輪車自動車も一定の割合で交通事故に遭います。
では,三輪車自動車が交通事故に遭った場合,どういう基準で過失割合を決するのでしょうか。現在交通事故損害賠償実務において当たり前のように規範として使用されている別冊判例タイムズNo.38(全訂5版)に三輪車自動車の区分がなされていないため問題となります。
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別冊判例タイムズの規範化(前提)
交通事故が発生した場合,当然ですがその1つ1つの状況は異なりその時々において予測可能性が異なります。
そこで,事案解決のためには,当事者(男か女か,何歳か,視力,持病,運転歴等)・車両(どこのメーカのどういう車か,ブレーキ制動の差等)・事故場所(道路幅,見通し,時間等)・走行態様等(速度,道路のどこを走っていたか等)について詳しく分析していかなければ判断できないはずです。
もっとも,交通事故処理の公平・迅速化を図るため,東京地裁交通部(民事27部)が,典型的な事案毎に条件を絞って類型化(予想可能性を数字化)し,簡易・迅速に処理する方向性を志向し解釈基準を作り出しました。
現在交通事故損害賠償実務において当たり前のように使用されている別冊判例タイムズ(現在使用されているバージョンは,別冊判例タイムズNo.38(全訂5版))です。
そして,この別冊判例タイムズによる類型化の有用性から全国で使用されるに至っています。
三輪車交通事故の際の過失検討の問題点
前記別冊判例タイムズは,歩行者・自転車・単車・四輪車を区分し,これらの組み合わせによって類型化し,過失判断が規範化されているのですが,前記区分の中に三輪車自動車が挙げられていませんので,三輪車自動車が交通事故に遭った場合にどのように考えるかが問題となるのです。
この点,別冊判例タイムズNo38では,p309の本文中において四輪車の中に三輪及び四輪を超える自動車を含めると記載していますので,別冊判例タイムズNo38では三輪車は四輪車に含まれると考えていると解するように読むのが一般的と思われます。
ところが,法律を解釈すると,この判例タイムズの区分は誤りではないかと考えます。
どういうことかというと,道路交通法施行規則第2条備考欄によると,「車体の構造上その運転に係る走行の特性が二輪の自動車の運転に係る走行の特性に類似するものとして内閣総理大臣が指定する三輪の自動車については、二輪の自動車とみなして、この表を適用する。」とされているからです。
この内閣総理大臣が指定する三輪の自動車というのは,車体の構造上その運転に係る走行の特性が二輪の自動車の運転に係る走行の特性に類似するものとして内閣総理大臣が指定する三輪の自動車を指定する内閣府告示(平成21年内閣府告示第249号)によると,道路交通法施行規則第二条の表備考の内閣総理大臣が指定する三輪の自動車は,①三個の車輪を備えていること,②車輪が車両中心線に対して左右対称の位置に配置されていること,③同一線上の車軸における車輪の接地中心点を通る直線の距離が四百六十ミリメートル未満であること,④車輪及び車体の一部又は全部を傾斜して旋回する構造を有するという全ての要件を満たした車両としています。
すなわち,前記4つの要件を満たした三輪車自動車は道路交通法施行規則第2条備考欄によって二輪車として看做さなければならないはずであり,そうすると三輪自動車は二輪車として扱わなければならないはずです。
そのため,三輪自動車を四輪車として扱うとする別冊判例タイムズNo.38の規範区分には強い疑問が生じます(平成21年内閣府告示第249号の施行日が平成21年9月1日であり,別冊判例タイムズNo.38の発行日が平成26年7月10日ですので,告示を知りつつ別冊判例タイムズが発行されていることも疑問です。)。
私見
いずれにせよ,この三輪自動車を単車と見るか四輪車と見るかについては,裁判例の集積により解決していく問題であると思料するのですが,それまでは交通事故に遭った当該三輪自動車の構造・運転特性・どの運転免許で運転できる車両なのかなどに着目し,その三輪自動車が二輪車に近いものなのか四輪車に近いものなのかを総合評価することによって判断していくこととなると思料します。
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