給与振込先銀行口座への預金債権差押命令申立ては給与支払日の何日前にすべきか?

振込された給与を狙った預金債権の差押えは,執行裁判所のなす債権差押命令に基づく金銭執行であり(民事執行法143条,145条),差押え→換価→交付・配当という流れで実行されます。

そして,預金債権の差押えは,債権差押命令申立書を裁判所に提出することにより始まり(民事執行法2条,同規則1条),差押えの効力は,差押命令が第三債務者(預金債権差押えの場合は銀行)に送達されたときに生じるとされています(民事執行法145条5項)。

そこで,給与支払日(毎月25日であることが多い)を狙って預金債権を差押えるためには,タイミングを合わせて債権差押命令申立てをしなければなりません。

では,具体的にどのタイミングで申し立てをすればいいのでしょうか。

以下,債権差押命令申立書提出のタイミングと,なぜそのようなタイミングになるのかについて,簡単に説明したいと思います。

執行裁判所が受理した債権差押命令申立書の処理手順

受付での形式審査(1日目)

前記のとおり,預金債権の差押えは,債権差押命令申立書を裁判所に提出することにより始まるのですが(民事執行法2条,同規則1条),提出された債権差押命令申立書は,まず執行裁判所の受付で形式的審査がなされた後,受理され,係属部に記録が回されていきます。

この受付の処理に概ね1日かかります。

係属部での書記官審査(2日目)

係属部に回ってきた債権差押命令申立書は,係属部で,担当書記官による審査を受け,債権差押命令の素案と共に,担当裁判官の決済に回っていきます。

この係属部での書記官の処理に概ね1日かかります。

担当裁判官による決済(3日目)

担当裁判官の下に回ってきた債権差押命令申立書は,当該裁判官による実質的審査を経て,要件を充足していれば,債権差押命令発布についての決済がなされ(民事執行法145条),記録が係属部の書記官の下に戻っていきます。

この担当裁判官の決済に概ね1日かかります。

債権差押命令発送(4日目)

裁判官の決済を得た債権差押命令が担当書記官の下に戻ってくると,担当書記官は,郵送による送達手続きを行います(民事執行法145条3条)。

この担当書記官の債権差押命令送達手続きに概ね1日かかります。

第三債務者への送達(郵便に要する期間)

そして,債権差押命令は,郵便により第三債務者(預金債権差押えであれば銀行)に送達され,第三債務者がこれを受領した時点で,差押えの効力が生じ(民事執行法145条5項),その後債務者への送達と1週間の期間経過を経て取り立てが可能となります(民事執行法155条1項)。

そこで,この債権差押命令の郵送に要する期間も勘案する必要があります。

給与狙いの預金債権差押命令申立ては何日前にすべきか

以上を前提として,債務者の給料日が毎月25日である場合に,その給与が入る預金口座を差し押さえたい場合,どのタイミングで債権差押命令の申立てをすべきでしょうか。

結論から申し上げますと,申立先の執行裁判所が大規模庁であり,郵便が1日で届く場所にある銀行口座を差押える場合には,5営業日前に債権差押命令申立書を執行裁判所に提出するのがベターです。

なぜなら,近場で郵便が翌日に届くことが想定できる場合には,1営業日前に第三債務者への送達,2営業日前に債権差押命令発送,3営業日前に裁判官決済,4営業日前に書記官審査,5営業日前に受付審査となりますので,25日の5営業日前に提出すると,25日に効力が発生するという結論となりやすいからです。

なお,5日前ではなく,5営業日前ですので,日にちは必ずしも20日とは限らないという点に注意が必要です。

また,前記日程は,あくまでも目安であり,裁判所の事務量等によって1日遅れることもあれば,1日早まることもありますので(特に,小規模庁であればすぐに事件が回っていくこともあります。),申立てのタイミングは提出前に執行裁判所に電話で聞くなどして確認しておく必要があります(当職は,事前に確認した上で,安全を見て1日遅らせて26日に到着するタイミングで裁判所に提出しております。)。

余談

なお,余談ですが,以上は,当職が主に使用する大阪地方裁判所(おそらく案件数の多い大規模庁)での処理であり,発送日指定の上申を受け付けている裁判所(おそらく案件の少ない地方の小規模庁)であれば,上申書を提出すれば,裁判所から第三債務者に対する差押命令発送日を特定できますので,わざわざ差押日を逆算することなく郵便に要する期間だけを考え,事前に差押命令申立てが可能です。

参考にしてください。

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