【軌道敷内の法規制】路面電車と車両との交通事故の際の法律関係

現在17都市で運航している路面電車ですが,その軌道敷に自動車が進入することがある関係上,路面電車と車両との交通事故が一定数生じます。

この点,路面電車が走っている都市が多くないこと,またそのために交通事故の絶対数がそれほど多くないことなどから路面電車が走る軌道敷内における交通事故についてはあまり周知がなされていないように思います。

そこで,本稿では,軌道敷内における路面電車と車両との交通規制と事故発生時の基本的な考え方を説明したいと思います。

路面電車と車両との関係

車道と軌道敷の意義

車両が走行することが出来る道路を車道といい,路面電車が走行する場所を軌道といいます。

① 車道とは

これをもう少し道路交通法に即して言うと,車両が走行する「車道」とは,車両通行の用に供するために縁石線若しくはさくその他これに類する工作物又は道路標示によって区画された道路部分をいいます(道路交通法2条1項3号)。

車道は,車両通行に用いられる道路であるため,車道通行車両は道路交通法の規制に服します。

② 軌道・軌道敷とは

他方,路面電車が走行するレール及びレール間の道路部分を「軌道」といい,これに左右各61cmを加えた範囲を軌道敷といいます(軌道法第12条1項参照)。

車道と軌道敷との接点

前記のとおり,車両が走行する道路を車道,路面電車が走行する道路を軌道(及び軌道敷)といい,本来的にはそれらは別物なのですが,路面電車の場合にはこれらが隣接して設置されているため,車道上を走行する車両と軌道上を走行する路面電車との交通事故が発生し得ます。

具体的には,路面電車が車道に進入することは脱線時以外には想定しがたいので問題とはならないのですが,車両が軌道(又は軌道敷)内に進入することはよくありますので,軌道敷内に進入した車両と路面電車との法律関係が問題となります。

問題点

では,軌道(又は軌道敷)に入った車両と路面電車との間で交通事故が発生した場合,どのような法律関係となるのでしょうか。

この場合の両者の法律関係(過失)を検討するには,軌道(又は軌道敷)内に進入する車両の注意義務がどのようになっているのかを知る必要があります。

軌道敷内の車両通行規制

原則として車両は軌道敷内の通行禁止

軌道の通行ができるのは路面電車に限られており,原則として,車両(トロリーバスを除く)が軌道敷内に進入して通行することは法律上許されておりません(道路交通法21条1項)。

ここでいう通行禁止とは,車両の前部が軌道敷内を通行する場合を含むことはもちろんですが,車両の一部が軌道敷内に入っている場合も含みます。

例外的に車両が軌道敷内を通行できる場合

もっとも,以下の場合には,例外的に車両が軌道敷内を通行することが許されます。

①道路標識等により軌道敷内の通行ができるとされているとき(道路交通法21条2項3号)

②左折・右折・横断・転回のために軌道敷を横切る必要がある場合(道路交通法21条1項前段)

③危険回避のためにやむを得ない場合(道路交通法21条1項後段)

④道路の左側部分から軌道敷を除いた部分の幅員が車両通行に不十分な場合(道路交通法21条2項1号)

⑤道路の損壊・工事のその他の障害のため当該道路の左側部分から軌道敷内を除いた部分が車両通行に不十分な場合(道路交通法21条2項2号)

例外的に軌道敷内の通行が許された車両の注意義務

前記により,車両が例外的に軌道敷内を通行できる場合となったとしても,軌道敷内において車両が路面電車に劣後する関係にあることに変わりはありません

すなわち,例外に該当し,車両が軌道敷内を走行することが許される場合であっても,軌道敷内において路面電車の走行を妨げること(路面電車を停止又は徐行しなければならない状態に至らせること)は許されず,車両運転者には,後方から路面電車が接近してきたときは速やかに軌道敷外に出るか又は当該路面電車から必要な距離を保つようにしなければならないとされています。

軌道敷内で「第2」「第3」の各義務に違反した車両運転者には,2万以下の罰金又は科料に処される可能性があります(道路交通法121条1項5号)。

そして,軌道敷内で車両と路面電車との交通事故が発生した場合には,具体的な事案によってその過失割合は変わり得ますが,このそもそもの優劣関係から車両側に相当厳しい判断が下されることが一般的です。

参考にしてください。

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