交通事故損害賠償請求事件における遅延損害金率と中間利息控除率は令和2年4月1日を境に大きく変わります

民法の債権関係の規定の全般的な見直しを目的とする民法の一部を改正する法律が,令和2年4月1日から施行されます。

同改正によって民法所定の法定利率が変更されます(改正民法404条)。

この民法所定の法定利率の変更によって,交通事故損害賠償請求事件についても,大きな変化が生じることとなります。具体的には,遅延損害金と中間利息控除です。

損害賠償額を大きく左右する大変革です。

以下,実務上の扱いの変化について説明します。

遅延損害金率の変更について

交通事故損害賠償請求権には,不法行為時から遅延損害金が加算されるのですが,その利率は,令和2年3月31日までに発生した事故については5%,令和2年4月1日以降に発生した事故については3%とされることとなりました(以降の変動利率は,現時点では不明。)。

その理由は,以下のとおりです。

金銭債務の遅延損害金の算定は,債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によるとされるところ(改正民法419条1項),不法行為損害賠償債務は不法行為時に遅滞に陥ると解釈されますので(最判昭和37年9月4日・民衆16巻9号1834頁),交通事故時の法定利率により,遅延損害金を算定することとなります。

この点,民法の改正により,改正民法施行時である令和2年4月1日を境に法定利率が3%に引き下げられ,その後は市中金利の変動に伴う変動金利が採られることとなりました(改正民法404条)。

もっとも,同条文には遡及効はなく(附則17条2項),令和2年3月31日までは,改正前民法が適用されますので,法定利率は5%とされます。

そこで,交通事故により発生した損害賠償請求権についての遅延損害金は,令和2年4月1日を境に変わることとなり,令和2年3月31日までに発生した事故については5%,令和2年4月1日以降に発生した事故については3%とされることとなりました。

余談ですが,保険会社が保険金を支払ったために保険法25条によって損害賠償請求権を代位取得したことによる求償金請求を行う場合であっても,行使する権利自体は損害賠償請求権ですので,保険金支払日ではなく,交通事故発生日を基準として遅延損害金率が定まります

中間利息控除の変更について

法定利率の変更に伴う,もう1つ大きな変化が中間利息控除率の変更です。

交通事故損害賠償請求権のうち,逸失利益や将来介護費など,将来発生する損害については,算定に際し,中間利息の控除をしなければならないのですが,この中間利息控除率についても,令和2年3月31日までに発生した事故については5%,令和2年4月1日以降に発生した事故については3%とされることとなりました(以降の変動利率は,現時点では不明。)。

その理由は,以下のとおりです。

逸失利益や将来介護費算定に際して中間利息を控除する場合には,その損害賠償請求権が生じた時点における法定利率によるとされるところ(改正民法722条1項,同417条の2),不法行為に基づく損害賠償請求権については,後遺障害分も含めその全てが不法行為時(交通事故発生時)に発生することとなるため,中間利息控除についても,交通事故発生時を基準とされることとなります。

そこで,中間利息控除率についても,令和2年4月1日を境に変わることとなり,令和2年3月31日までに発生した事故については5%,令和2年4月1日以降に発生した事故については3%とされることとなりました。

この中間利息控除率の変更は,損害額算定に極めて大きな影響を与えます。

具体的には,ライプニッツ係数が以下のとおり変更されますので,若年者に高位の後遺障害等級認定がなされた場合等では,損害額算定において,最大で1.5倍ほどの差が生じます。

【令和2年3月31日まで発生事故(中間利息控除率5%)のライプニッツ係数】

年数ライプニッツ係数年数ライプニッツ係数年数ライプニッツ係数
10.95242614.37525118.339
21.85942714.6435218.4181
32.72322814.89815318.4934
43.5462915.14115418.5651
54.32953015.37255518.6335
65.07573115.59285618.6985
75.78643215.80275718.7605
86.46323316.00255818.8195
97.10783416.19295918.8758
107.72173516.37426018.9293
118.30643616.54696118.9803
128.86333716.71136219.0288
139.39363816.86796319.0751
149.89863917.0176419.1191
1510.37974017.15916519.1611
1610.83784117.29446619.201
1711.27414217.42326719.2391
1811.68964317.54596819.2753
1912.08534417.66286919.3098
2012.46224517.77417019.3427
2112.82124617.88017119.374
2213.1634717.9817219.4038
2313.48864818.07727319.4322
2413.79864918.16877419.4592
2514.09395018.25597519.485

【令和2年4月1日以降発生事故(中間利息控除率3%)のライプニッツ係数】

年数ライプニッツ係数年数ライプニッツ係数年数ライプニッツ係数
10.97092617.87685125.9512
21.91352718.3275226.1662
32.82862818.76415326.375
43.71712919.18855426.5777
54.57973019.60045526.7744
65.41723120.00045626.9655
76.23033220.38885727.1509
87.01973320.76585827.331
97.78613421.13185927.5058
108.53023521.48726027.6756
119.25263621.83236127.8404
129.9543722.16726228.0003
1310.6353822.49256328.1557
1411.29613922.80826428.3065
1511.93794023.11486528.4529
1612.56114123.41246628.595
1713.16614223.70146728.733
1813.75354323.98196828.867
1914.32384424.25436928.9971
2014.87754524.51877029.1234
2115.4154624.77547129.246
2215.93694725.02477229.3651
2316.44364825.26677329.4807
2416.93554925.50177429.5929
2517.41315025.72987529.7018

参考にしてください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA