交通事故被害者は費やした弁護士費用を加害者に請求できるか(保険代位による求償請求との比較)

交通事故被害に遭い,弁護士に事件委任をした場合,要した弁護士費用を加害者側に請求できるのでしょうか。

請求できるとすると,その額はいくらになるのでしょうか。

以下,不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の場合と,保険代位による求償金請求訴訟の場合について,順に検討していきます。

不法行為に基づく損害賠償請求の場合の弁護士費用

民事訴訟法上の原則

我が国においては,示談交渉はもちろん,民事訴訟においても,弁護士に委任をすることなく自分で,これを行うことができます。

すなわち,訴訟提起・訴訟追行を行う上で,法律上は,弁護士委任が必要とされていないのです。

弁護士委任をするかしないかは,請求権者の自由なのです。

そのため,請求権者(原告)が,訴訟提起・訴訟追行のために弁護士委任をしたからといって,要した弁護士費用の全額を直ちに相手方(被告)に請求できるものではありません。

訴訟の専門化・技術化を原因とする修正

もっとも,現在の民事訴訟においては,専門化・技術化が進んでおり,法律の専門家でない一般の方が,自身の意思決定において十分な訴訟活動を行うことは困難です。

そのため,訴訟提起・訴訟追行を行う上で,事実上は,弁護士委任が必要とされているかのような現状があります。

この点は,不法行為に基づく損害賠償請求訴訟についてもあてはまり,同訴訟手続きにおいて十分な訴訟活動を行うためには,弁護士委任が必要な状況といえます。

実務上の運用

そこで,前記法律上の原則と,事実上の修正の必要性を踏まえ,最高裁は,不法行為と相当因果関係に立つと認められる範囲で,弁護士費用を損害として認定できると判示し,実務上も同様の運用がなされることとなりました(最小一判昭和44年2月27日,民集23巻2号441頁・判タ232号276頁)。

なお,認容される弁護士費用額については,本体の請求認容額の10%程度を基本とすることが多いといえます。

この判例により,弁護士委任の上で行われる交通事故損害賠償請求訴訟(不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の一類型)においては,判決に至った際,本体請求額の10%の範囲で弁護士費用が認容されることで実務的決着を得ています。

保険代位による求償金請求訴訟の場合の弁護士費用

では,かかる判例の射程は,保険代位による求償金請求の場合にも及ぶのでしょうか。

保険代位による求償金請求訴訟とは

保険会社が,保険会社と被保険者との間の自動車保険契約に従って,被害者に対して,被害者が被った損害賠償金の支払いをした場合,その支払の限度において,被害者が加害者に有していた損害賠償請求権を代位取得するとされています(保険代位)。

なお,保険代位の法的根拠は,平成22年3月31日までに締結された保険契約に基づく支払いの場合には旧商法662条1項,平成22年4月1日までに締結された保険契約に基づく支払いの場合には保険法25条1項です。

保険代位の法的構成

保険会社が,被保険者に対して保険金を支払ったことにより代位取得する権利は,元々被保険者が加害者に対して有していた権利そのものであり,保険金の支払いにより保険会社が新たな権利取得をするものではないとされています。

このように考えると,被害者から加害者に対して行う損害賠償請求訴訟においては弁護士費用が認定されるのですから,当該損害賠償請求権を代位取得したことにより行われる保険会社から加害者に対する保険代位による求償金請求訴訟の場合にも弁護士費用が認められるべきとも思えます。

この点については,認容裁判例も存在しています(大阪地判平成15年5月24日,交民集34巻3号641頁)。

保険代位による求償金請求訴訟における弁護士費用請求についての裁判例の趨勢

もっとも,保険会社から加害者に対する保険代位による求償金請求訴訟の場合,ほとんどの裁判例が,弁護士費用の認容を否定しています。

個人的には,保険代位の法的構成を以上のように考えるのであれば,保険代位による求償金請求訴訟の場合にも弁護士費用を認容すべきとも思うのですが,保険会社であれば,専門化・技術化が進んだ現在においても,自社で十分な訴訟活動が行えると思われているのでしょうか。

時間があれば,否定理由についても,もう少し突っ込んで調べてみたいと思いますが,本稿では紹介のみにとどめます。

なお,参考までに,保険代位による求償金請求訴訟において弁護士費用を否定した裁判例をいくつか紹介します。

否定裁判例:①大阪地判平成11年7月14日,交民集32巻4号1126頁

否定裁判例:②岡山地判平成12年6月27日,交民集33巻3号1065頁

否定裁判例:③大阪地判平成13年6月5日,交民集34巻3号733頁

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