国政選挙前に立候補者の名前を連呼するだけの選挙カーが街中を走り回る理由とは(法律上のルールと事実上のメリット)

衆議院議員総選挙,参議院議員通常選挙を問わず,国政選挙が近づいてくると,街中に選挙カーが走り回り,候補者の名前を連呼し続けます。

大音量での名前の連呼の意味が不明であるとか,単にうるさいとかの理由で嫌われ者になりがちな選挙カーですが,これが選挙前に街中を走り回るのにはそれなりの理由があります。

以下,選挙カーが現れる理由について,法的意味,事実上の意味の順に検討していきます。

選挙カーの法的位置付け

選挙に立候補した人は,当然に自身が選挙で当選するために,以降,選挙運動を行うこととなります。

ところが,我が国の選挙運動には,数多くの詳細な制限が課されています。

それらの規制は,お金がある人もない人も平等に立候補し,選挙運動ができることを志向するためになされるもので,金にものを言わせて得票数を獲得できうる選挙活動を列挙して,明文をもって禁止するものです。

一例を挙げると,①戸別訪問,②インターネット等を利用する以外の方法による文書図画の頒布,③休憩所の設置,④署名運動,⑤人気投票の公表,⑥飲食物の提供,⑦気勢を張る行為,⑧買収等が禁止されます。

公職選挙法上,選挙活動に多くの詳細な規制が存在するため,立候補者は,この法律上の規制に違反しない限られた手段内で選挙運動をしなければなりません。

具体的には,ポスターや,街頭演説などがあり,また最近ではインターネット上のホームページやSNSなども主要な運動となりえます。

また,これとあわせて,選挙カーでの選挙運動も可能です。選挙カーの利用には,専用車両のリース代からウグイス嬢の人件費に至るまで多額の費用がかかりますので,経済的公平性の見地からすると,なぜこれが許されるのかについては疑問も残りますが,少なくとも禁止はされていません。

この点,公職選挙法により選挙カーの走行は禁止されないのですが,走行中の選挙カーの中から演説をすることは禁止されています(公職選挙法141条の3本文)。

他方で,走行中の選挙カーの中から名前を連呼する行為は明文でもってわざわざ認容されています(公職選挙法141条の3但書き)。この内容であれば,午前8時から午後8時までの間,ひたすら選挙区内で名前を叫び続けて,候補者の存在をアピールし続けることができます。

以上,公職選挙法上,細かい規制がなされているところ,候補者が行いうる法律上禁止されない数少ない選挙運動として認められるものの1つとして選挙カーが選択され,そして選挙カーの利用方法として許された手段である選挙カーの中からウグイス嬢によって候補者の名前をひたすら連呼されるという選挙運動が繰り広げられることとなるのです。

これが,選挙カーの法律上の位置付けです。

公職選挙法141条の3
何人も、第百四十一条の規定により選挙運動のために使用される自動車の上においては、選挙運動をすることができない。ただし、停止した自動車の上において選挙運動のための演説をすること及び第百四十条の二第一項ただし書の規定により自動車の上において選挙運動のための連呼行為をすることは、この限りでない。

選挙カーの事実上の位置付け

前記のとおり,選挙カーは,立候補者による数少ない選挙運動手段の1つとして認められるのですが,具体的な活動としては,ただひたすら候補者の名前を連呼するだけです。

そのため,これを嫌っている人が,相当数おられます。

特にインターネット上の書き込みを見ていると,選挙カーがうるさいので,選挙カーから聞こえてくる名前の候補者には投票しないなどといった手厳しい意見も多く見られます。

このことから,選挙カーを使っていないことを売りにして選挙運動を行う候補者もいます(若手に多いように思います。)。

では,一見嫌われ者に見える選挙カーを,なぜ多くの候補者は選挙運動に選挙カーを使うのでしょうか。

答えは簡単です,選挙カーは候補者の選挙運動に絶大な効果があるからです。

このことが,選挙カーの事実上の位置付けです。

私は心理学者ではありませんので,人の深層心理はわかりませんし,また私自身が統計をとったわけではありませんので正確な数字はわからないのですが,選挙カーは,使用すればするだけ獲得票が増えるというのが,業界の常識なのだそうです。

否定的意見を持つ人もいますが,ほとんどの人は選挙前限りの恒例行事として諦めてうるのが実情ですし,そればかりか,選挙カーを心待ちにしている人さえ相当数いるそうです。

明確な理由は知りませんが,選挙カーには票を集める効果が実証されているがために,ほぼ全ての候補者が選挙運動に選挙カーを使用し,選挙前には街中が騒がしくなるという結論に至るのです。

選挙カーによる選挙運動をなくさせるためには

以上のとおり,法律上禁止されない数少ない選挙運動手段の中で,費用対効果も考慮して相当有効であることが実証されているということが,選挙カーが多用される理由です。

有効性が明らかとなっており,またこれが法律上許されるものである以上,今後も国政選挙の際に選挙カーが回ってくることは避けられません。

選挙の度に選挙カーが回って来ないようにするためには,法改正によって選挙カーを禁止するか,国民1人1人が,今よりもっと政治に関心を持つことによって選挙カーによる名前の連呼によってではなく,各候補者の政策目標等によって投票するようになって選挙カーが意味のないものであることを立候補者達(もっと言えば,現職議員達)に知らしめる必要があります。

今後,少子高齢化が進み,国力を失っていくかも知れない我が国において,将来を憂い日本のためを思って仕事をしてくれる政治家を産み出すことができるよう,選挙制度についても皆で知恵を出し合っていかなければならないのかもしれませんね。



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