別れた妻・夫に連れ去られた子の強制執行による引き渡し履行方法とは

未成年者の子がいる夫婦において,不幸にもその夫婦関係が破たんした場合,子の引渡しを巡って紛争が生じることがあり得ます。

親権者・監護権者となった一方の親が,親権・監護権のこうしにたいする妨害排除請求権の履行強制を主張して,他方の親の元にいる子の引き渡しを求める場合などがその典型例です。

そこで,以下,これらを実現する手段を検討するため,法律上認められる強制履行手段の種類と,子の引渡しになじむ強制履行手段について順に説明したいと思います。

第1 履行強制手段の種類

履行強制とは,債権者が,債務を任意に履行しない債務者に対し,国家権力を利用して強制的に債権の内容を実現させることをいいます。

日本では,私人が司法手続きを経ることなく自ら自己の権利を実現すること(自力救済といいます。)が認められていませんので,その代償として,国家権力による強制履行制度が整えられているのです。

我が国での強制履行の方法としては,民法にて,直接強制,代替執行,間接強制の3つの方法を定め,これを民事執行法にて具体化しています。なお,法律上は,この3つの方法の他に,その他の方法という文言を置いていますが,これは将来に備えたものであり,現在具体化した方法ではありません。

改正民法414条(2020年4月1日~)
債務者が任意に債務の履行をしないときは,債権者は,民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い,直接強制,代替執行,間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。ただし,債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。

① 直接強制(民事執行法上条文多数)

直接強制とは,文字通り,内務の内容をそのまま強制的に実現する方法です。

この方法は,与える債務の履行に親和性があり,金銭支払い債務の具体化等によく利用されます。

② 代替執行(民事執行法171条)

代替執行とは,債務者以外の者に債務の内容を実現させ,その費用を債務者から取り立てる方法です。

この方法は,なす債務に親和性があり,建物収去・土地明渡債務の具体化等によく利用されます。

③ 間接強制(民事執行法172条)

間接強制とは,債務者が債務を履行しない場合に1日あたりいくらという制裁金を課すことで,債務者に履行への心理的圧力を加え,間接的に履行を強制する方法です。

この方法は,与える債務・なす債務のいずれにも親和性があります。

第2 子の引渡しになじむ履行強制方法

では,子の引渡しについては,前記「第1」で紹介した履行強制方法のうちどの方法によることになるのでしょうか。

① 間接強制による場合

子の引き渡しの強制履行手段として,債務者である一方の親に履行への心理的圧力を加え,間接的に履行を強制する間接強制の方法が認められることについては,争いがありません。

② 直接強制(代替執行)による場合

子の引き渡しについて,直接強制の手段を認めるかについては,裁判例・学説上では,見解が分かれており,従来は,人間である子をあたかも物のように扱う直接強制手段は認められないというのが通説でした。

実際,直接強制を否定する裁判例はたくさんあります(札幌地決平成6年7月8日・家月47巻8号115頁,札幌家審平成8年8月5日・家月49巻3号80頁等)。

他方で,直接強制についても,子の福祉に反しないものであれば,認められるべきではないかとの意見も有力であり,子に意思能力がない場合に限ってこれを認めるべきという下級審裁判例(東京家審平成8年3月28日・家月49巻7号80頁,東京地裁立川支部決平成21年4月28日・家月61巻11号80頁)も存在しています。

この方法は,直接強制手段といえるのですが,実際には執行官が,子供がいる他方の親のもとに赴き,当該親から直接子供を引き取ってくることになりますので,代替執行であるといえます。

③ その他(事実上の強制履行方法)

以上に加え,人身保護法に基づく人身保護手続きによって,事実上,子の引渡しが実現できる場合があります(最判平成5年10月19日・民集47巻8号5099頁)。

この方法は,執行力自体はないものの,最初の審問期日に子の出頭を命じて(人身保護命令,同法12条2号)出頭させ,審問期日に出頭した子を裁判所職員が事実上預かり,請求を認容する人身保護判決と同時に請求者に子を引き渡すという手続きです。

第3 まとめ

以上のとおり,子の引渡しについては,法律上の強制履行方法としては間接強制が,事実上の履行強制方法として人身保護手続きが可能となっています。

直接強制(代替執行)については争いがあるものの,これを否定してしまえば,実力で子を奪取したものが結果的に自己の主張を実現できてしまうことから正義に反する結論となります。

そこで,実務上は,子に意思能力がない場合には,直接強制(代替執行)を認めるという見解が優勢といえます。

以上をまとめると,子の引渡しについての強制履行方法としては,基本的には間接強制の方法によるのでしょうが,人身保護法に基づく人身保護手続きによる事実上の達成方法も可能であり,また,これらに加えて子に意思能力がない場合に限っては直接強制(代替執行)も認める場合があるというのが現時点で認められた方法といえます。

参考にしてください。



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