労働者が新型コロナウイルス等の伝染病に感染した場合に労災保険金を受給できるか

本稿を書いている時点で,大都市を中心として日本中で新型コロナウイルスが蔓延しています。毎日のように,「新たに何名が感染しました」などというニュースが紙面をにぎわしている状況です。

もはや,他人ごとではなく,自分も新型コロナウイルス等の伝染病に罹患する可能性が高いのだということを前提として,日常生活を送る必要があります。

そこで,本稿では,不幸にも新型コロナウイルス等の伝染病に感染し,やむなく仕事を休まざるを得なくなった場合に,その補償として労災保険金の給付を受けることができるのかについて,労災保険金の給付要件,新型コロナウイルス等の伝染病罹患の場合のかかる要件充足の可否について検討したいと思います。

なお,従業員が休業するに至った場合の雇用主からの賃金支払い・減額の可否については,別稿:新型コロナウイルス等の伝染病蔓延の影響で休業に至った労働者の賃金減額の有無についてで説明していますので,同稿をご参照ください。

労災給付金支払い要件

労災保険給付がなされるのは,労働者が,①業務災害又は②通勤災害に遭った場合です(労働者災害補償保険法7条1項)。

そこで,労災保険金の受給要件である業務災害,通勤災害とは何かについて検討します。

①業務災害とは

業務災害とは,労働者が業務上負った負傷,疾病,障害又は死亡をいいます(労働者災害補償保険法7条1項1号)。

この点,業務上の傷害等と認められるためには,業務遂行性(労働契約に基づき事業主の支配下にある状態)と,業務起因性(業務と疾病等との間に一定の因果関係が存在する)が必要であるとされています。

わかりやすく言うと,業務災害とは,事業主の指示の下で,事業主の業務を行っている際に被った負傷等をいいます。

②通勤災害とは

通勤災害は,労働者の通勤時の負傷,疾病,障害又は死亡をいい(労働者災害補償保険法7条1項2号),住居と就業場所との往復,厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業場所への移動,住居と就業場所との往復に先行又は後続する住居間の移動をいうとされています(労働省災害補償保険法7条2項)。

ただし,通常の経路を逸脱した場合,又は移動を中断した場合には,日常生活上必要な行為として厚生労働省令で定めるやむを得ない最小限の場合(日用品の購入,教育訓練,選挙権行使,治療行為等)を除き,通勤ではないと判断されます(労働者災害補償保険法7条3項)。

新型コロナウイルス等の伝染病の感染の場合に労災給付金の支払いはなされるか

では,新型コロナウイルス等の伝染病に罹患した場合の労災保険金の給付要件はどうなるのでしょうか。

以上のとおり,労災保険金の給付要件は業務災害又は通勤災害となっていますので,新型コロナウイルス等の伝染病に罹患したとして労災給付金を受け取るためには,業務中又は通勤中に新型コロナウイルス等の伝染病に罹患したことが要件となります。

抽象的に言うととても簡単です。

もっとも,具体的にこれを立証するのは簡単ではありません。

人は,仕事の他,日常生活上でも多くの人と接しますので,感染した病原菌について,誰からうつされたかなどを判断するのはとても困難だからです。

この点については,一般的に,業務又は通勤における感染経路の特定状況,潜伏期間・症状等の医学的整合性,業務・通勤外の感染機械の有無などを基に個別具体的に事実認定がなされることとなると思います。

新型コロナウイルス等の伝染病の場合には,臨床的特徴等から新型コロナウイルス感染症が疑われた場合,保健所により疫学調査(聞き取り等)が行われますので(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律15条),まずは基本情報・臨床情報・推定感染源・接触者等必要な情報が収集されますので,一定の割合で感染経路が特定できます。

かかる疫学調査の結果,感染経路が,業務中・通勤中のものであった場合には,労災保険給付金を得やすいこととなります。

医師・看護師等の医療従事者や,業務に関連する場所でクラスターが発生していた場合等では,ほぼ問題なく認定されると思います。

他方で,保健所等の調査によっても感染経路が不明である場合には,一定の困難性が伴います。業務中・通勤中感染の立証ができないからです。

もっとも,労災保険は労働者のためにかけられた保険ですので,その業務起因性が完全に立証される必要があるとまでは考えられておらず,高度の蓋然性(多分そうではないかという程度)で足りるとも考えられています。

そのため,この場合には,業務日報等の業務記録,日常生活上の行動記録,症状発現時期とその経過等を細かく立証することによって,業務中又は通勤中の罹患であるとの証明をしていく必要があります。

疑問点があれば,お近くの弁護士にご相談ください。



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