交通事故加害車両に自動車保険が付保されているにもかかわらず,加害者側が保険を使わないなどと言って,保険対応をしてくれない場合があります。
この場合,交通事故加害者は,加害車両に付保されている自動車保険会社に対して,直接対人・対物保険金を請求できるのでしょうか。
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法律の規定では相手方保険会社に対して直接請求できない
法律上,賠償義務を負う者は,加害行為者等の法律上義務負担者とされる者であるとされています。
被害者が,加害車両付保保険会社に対して,直接請求をすることを認める法律は存在しません。
そのため,「法律の規定によっては,」被害者は,加害者運転車両付保保険会社に対し,直接損害賠償請求はできません。
約款の規定により相手方保険会社に対して直接請求ができる
では,被害者が,加害車両付保保険会社に対して,直接損害賠償請求ができないかというと,そうでもないのです。
確かに,法律上の権利としては認められていないのですが,現在販売されている自動車保険のほぼ全てに,保険約款上,被害者が保険会社に対して直接請求ができるという直接請求権条項が規定されているからです。
すなわち,「自動車保険約款の規定により」,被害者は,加害者運転車両付保保険会社に対し,直接損害賠償請求ができるのです。
なお,直接請求権が約款上定められた理由は,以下の大人の事情によるものですが,実務上はどうでもいい話なので,興味がある場合は,別稿:自動車保険会社担当者による示談代行が弁護士法72条に違反しない理由をご一読ください。
そして,この直接請求権は,保険会社と被保険者(加害者)との間の第三者のためにする契約(民法537条)と解されているため,保険会社が,被保険者(加害者)が被害者に負担する不法行為に基づく損害賠償債務を重畳的に引き受ける契約であるとされています。なお,被害者の受益の意思表示は,被害者が保険会社に直接請求したときと解され,被保険者の同意も不要ですので,被害者が受益の意思表示をした後は,被保険者が勝手に被害者の直接請求権を妨げることもできません。
もっとも,自動車保険約款上,直接請求権の行使要件が定められており,被害者が,保険会社に対して直接請求権を行使できるのは,被保険者(加害者)と,被害者との間で,判決が確定した場合・訴訟上和解・調停が成立した場合,示談合意が成立した場合に限られています。
そのため,実務上は,被保険者(加害者)に対して訴訟提起をする際に,あわせて,加害者運転車両付保保険会社に対しても被保険者に対する判決確定を条件とする将来給付の訴えの形式をとって,共同被告として訴訟提起をすることにより直接請求権を行使することになります。
直接請求行使する際の訴状における請求の趣旨の記載事項
なお,訴訟提起の際に,訴状に記載する請求の趣旨は,以下のとおりとなりますので,参考にしてください(以下の請求の趣旨第2項が,直接請求権です。)。
1 被告A(加害者)は,原告に対し,金・・万・・円及びこれに対する令和・・年・・月・・日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え
2 被告B(保険会社)は,原告に対し,被告Aに対する判決が確定したときは,金・・万・・円及びこれに対する令和・・年・・月・・日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え
また,参考までに最もシンプルな訴状案を以下に張り付けておきますので,訴訟提起する場合にはダウンロードをした上で適宜修正してご使用ください。
補足
前記直接請求権行使をする前提として,加害車両付保保険会社を調べる必要がありますが,その手順は,①まず交通事故証明書を取付けて相手方車両のナンバーを確認し,②弁護士法23条照会にて損保協会に対して当該ナンバーの車両に付保されている任意保険会社はどこかという回答を求めるという流れです。
なお,日本の保険会社については日本損害保険協会,外資系の保険会社については外国損害保険協会に対して行う必要があるので注意してください。
余談ですが,東京海上日動火災保険株式会社は,回答を拒否します・・・
裁判で判決が確定し任意保険会社に直接請求した場合、判決通りの金額が支払われますか。 又、直接請求さら支払いまでどれぐらいの期間で支払われますか。
また、支払い済みまで5分と判決文にありますが支払い受けるまで5分の金利が支払われますか。
吉田 忠弘 様
保険会社を被告とした判決が確定すれば,当然に,支払いまでの損害金を含めた判決通りの金額が支払われます。
保険会社である以上,資力の問題もありませんし,社会的立場から不払いの可能性も皆無です。
支払いは,保険会社に聞けば教えてくれます。
もっとも,加害者を被告とした判決であれば話は別です。
その場合には,保険会社が訴訟に参加していたか(参加できたか)が争われる可能性があり得ます。
疑問点があれば,お近くの弁護士にご相談ください。