給与債権が差押えられた債務者が行う差押命令取消申立てとは(民事執行法の令和元年改正もふまえて)

誰かに何らかの金銭債務を負担する債務者が,給与債権や退職金請求権を差し押さえられた場合,どうしていいかわからないという方が多いのではないと思います。

払うべきものを払わなかったのが悪いというのはもちろんですが,生活苦からやむなく支払いができなかったという場合もあり得ます。

このような,差押えがなされたことが,直ちに生活苦に直結する債務者であっても,給与債権等の差押えに対してとるべき手段はないのでしょうか。

以下,かかる給与債権等を差し押さえられた債務者がとりうる手段である差押命令の取消申立という制度について,簡単に説明します。

請求債権が一般金銭債権の場合

給与債権の差押えの範囲

よく知られた話ですが,一般債権で,給料や退職金等を差し押さえる場合,差し押さえることができるのは,その差し押さえるべき債権の4分の1(ただし,標準的な世帯の必要性経費を勘案して政令で定める額を超えるときは,政令で定める額に相当する部分)に限定されます(民事執行法152条)。

すなわち,一般債権者は,債務者が,勤務先に対して有する給与債権のうち,その4分の1を差し押さえてこれを取り立てることができるのです。

他方,4分の1とする割合制限とは別に,限度額の制限はありません。

すなわち,法律上,申立の段階においては,一般債権者は,債務者の給与等がどれほど低額であっても,理論的には,その4分の1の差押えは制限を受けないのです。

そのため,債務者の給与が10万円に過ぎない場合であっても,その4分の1である2万5000円の差し押さえは可能なのです。

過酷差押えから債務者を保護する制度

もっとも,前記のように,月額給与が10万円程度に過ぎないものから,その給与の4分の1の差し押さえを認めると,直ちに当該債務者の生活は困窮します。

このような場合にも,4分の1の差し押さえを認めると,債務者にとっては,もはや,生きていくことすら難しくなると言っても過言ではありません。

そこで,法は,債権者からの差し押さえがなされた後に,債務者の申し立てにより,裁判所が債権者・債務者の収入や生活状況等を考慮して,前記4分の1とされた差し押さえについて,その全部又は一部を取り消すことができ得ると定めています(民事執行法153条)。

平たく言うと,債務者が,「この給料で差し押さえされたら生きていけないので,勘弁してもらえませんか」という申立てをして,裁判所が,「そらしゃーないな」と判断したら,給与等の差押えの効力が執行するというものです。

そこで,給与債権が差し押さえられ,それによってただちに自身の生活が困窮することとなる債務者は,この差押命令の全部又は一部取り消す旨の申立てを検討することが必要となります。

もっとも,債権者による債務者の給与の取立権は,債務者に対する差押命令送達日の「4週間後」に発生するため(民事執行法155条2項,同法161条5項,なお,改正前民事執行法では1週間でした。),債務者は,給与債権等の差し押さえがなされたことを知ったのち,直ちに行動を開始しないと間に合いませんので注意が必要です。

請求債権が扶養義務等の金銭債権の場合

前記の内容は,請求債権が扶養義務等に係る金銭債権であっても,基本的な内容は大きくは変わりません。

もっとも,請求債権が,一般債権ではなく,権利実現が債権者の生計維持に不可欠なものであるとの扶養義務等に係る金銭債権の特殊性から,いくつか相違点が出てきます。

まず,給料や退職金等を差し押さえる場合の,差し押さえることができるのは,その差し押さえるべき債権の2分の1となります(民事執行法152条3項)。

また,債権者による債務者の給与の取立権は,債務者に対する差押命令送達日の「1週間後」に発生しますので(民事執行法155条1項,同法159条6項,同法166条3項,なお,民事執行法改正でこの期間は改正されませんでした。),事実上,差押命令取消申立てを行うことは困難といえます。

参考にしてください。



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