言うまでもなく,交通事故損害賠償事件の場合,被害者に対して損害賠償義務を負うのは,加害車両運転者です。また,自賠法3条責任を追及する場合には,加害車両保有者もあわせて賠償義務を負います。
通常の場合には,かかる賠償義務者の特定は問題とならないのですが,加害車両が金融車の場合には,賠償義務者が特定できない事態に陥る場合があります。
どういうことでしょうか。
以下,金融車とは何か?何が問題となるのかについて見ていきたいと思います。
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金融車とは何か
自動車には登録制度があり,その所有関係を公示することができます。
もっとも,自動車の登録制度は所有関係の登録ができるのみで,不動産登記のような担保権の登録制度はあません。
そこで,自動車に担保を付す場合には,担保権者を所有権者として登録する,いわゆる所有権留保の形態でなされ,担保権設定者(車両購入者)は,使用者として登録されます。
この点,ローンを組んで車両を購入した者が,当該ローンが払えなくなってしまった場合,通常ならば,信販会社が,留保された所有権に基づき当該車両を引き上げることになりますが,この場合には,登録名義上の所有権を有している債権者による引き上げであるため,以降も名義変更が可能な車ととして市場に流通していきます。
ところが,車両使用者が,自動車ローンを組んだ信販会社以外でも借り入れをしていた場合などで,所有権を留保している信販会社以外によって車両の引き上げがなされた場合,当該引き上げをした者は,当該車両の所有者でないため,以降,登録名義の変更ができない状態となります。
このように,所有権留保付車両が,所有権留保権者の意に反して売買されたために,登録名義の変更手続きができなくなってしまった車両を金融車といいます。
なお,ローンの支払いに関係なく,車両使用者が,所有権留保付の状態まま勝手にインターネットオークションや掲示板を活用して売却してしまうことによっても,以降の登録名義の変更ができない金融車が発生してしまいます。
金融車の扱い
このような名義変更もできないような金融車を購入する者がいるのか疑問に思われるかもしれませんが,金融車にもマーケットがあり,普通に売買されています。
金融車の売買自体,違法性もありません。
金融車は,高級車が多いにもかかわらず,名義変更できないこと等のデメリットがあるために,通常の車両の中古車相場の半額程度に設定されており,圧倒的な経済的メリットがあるためにそれなりに人気もあります。
なお,金融車の場合,経済的なメリットを打ち消す数々のデメリットもあるのですが,本稿ではその紹介は割愛します。
交通事故賠償上の金融車の問題点
この点,交通事故賠償上,加害車両が金融車であった場合,困難な問題に直面することがあります。
それは,加害車両が金融車であった場合で,その車両が事故後逃走したり,車両運転者が偽名を名乗っていたりする場合,加害者の特定ができなくなることがあるのです(金融車の場合には,ナンバーから運転者を特定できません。)。
このような場合,加害車両に付保された自動車保険から手繰っていく(金融車でも対人・対物保険に加入できますので,保険加入があればそこから調べることも出来得ます。),警察に捜査依頼をするなどして,相手方特定をしていかなければなりません。
相手方の電話番号の聞き取りができていれば弁護士に依頼すれば何とか追跡できることもあります。
相手方を金融車とする交通事故に遭って困った場合には,一度近くの弁護士に相談されることをお勧めいたします。