相続税節税目的の養子縁組の限界(孫養子のメリット・デメリット)

「最高裁で節税目的の養子縁組が認められたので自分も養子を増やして節税したい。」との相談が,最近続けてありました。

この相談に対する回答は,「養子の数をいたずらに増やしても基礎控除は増えませんので,相続税の節税にはなりません。」なのですが,多くの人が誤った理解をしています。

皆さん税金を払いたくないので,自己に都合よく解釈をしているみたいです。

以下,どういうことなのか説明します。

なお,相談の基となっている判例は,最判平成29年1月31日・民集71巻1号48頁ですが,勘違いをしている人が多いようなので,前提事実から順に説明し,誤りを正しておきたいと思います。

相続税の基礎控除額

現在,遺産にかかる相続税の基礎控除額は,3000万円+600万円×法定相続人の数とされています(相続税法15条1項)。

そのため,法定相続人(実子)の数が多いほど,相続税の基礎控除額が増え,相続税が安くなることになります。

では,養子を増やせば相続税の基礎控除額が増えるのか,ここでいう法定相続人(相続税法上の法定相続人)に養子もそのまま含まれるのかが問題となるのですが,法定相続人の概念が民法と相続税法で異なっていることが混乱の原因となっています。

民法上の法定相続人

まず,民法上の法定相続人の概念を見てみましょう。

民法上,相続人として,第1順位に「子」が規定されています(民法887条1項)。

すなわち,民法上は,「子」が法定相続人になるのです。

民法上,「子」の人数についての制限はありません。

また,民法上,「子」には,実子と養子の区別もありません。

そのため,民法上は,当事者間に親子関係を創設するための縁組意思がある限り(民法802条1項),養子を何人とっても構わないのです。国に口出しされるような話ではありません。

すなわち,民法上は,養子は何人いても,全員が養親の法定相続人となるのです。

関連論点
相続人の範囲・順位(配偶者・子・養子・直系尊属・兄弟姉妹の別)と法定相続分について

相続税法上の法定相続人

ところが,徴税の観点からすると,前記民法上の概念をそのまま相続税に当てはめることはできないのです。

なぜなら,被相続人が,相続税を免れるために,養子を大量にとってしまった場合,適切な相続税課税ができなくなってしまうからです。

そのため,相続税法では,前記のとおり,相続税の基礎控除の際の法定相続人の数にカウントできる養子の数を1人又は2人に制限しています

具体的には,相続税の基礎控除の際の法定相続人の数につき,相続税法15条3項1号及び2号に該当する場合を除き,単なる養子は,以下の範囲でしか法定相続人に含まれないと規定されています(相続税法15条2項)。相続税法上は,養子の数は無制限ではないのです。

①被相続人に実子がいる場合には,養子は1人。

②被相続人に実子がいない場合には,養子は2人。

民法と相続税法との概念の違い

以上のとおり,民法上は,養子は何人いても法定相続人となるのですが,相続税法上は,被相続人に実子がいる場合には養子は1人,被相続人に実子がいない場合には,養子は2人しか法定相続人としてカウントされないとの違いが生じているのです。

この民法と相続税法との養子概念の違いが,冒頭の勘違いの根幹なのです。

民法上,養子は何人とってもいいとされているのだから,とった養子は全員が,相続税の基礎控除対象者となると考えがちですが,そうではないのです。

冒頭の裁判は,相続税の節税目的でなされた養子縁組の場合は,親子関係を創設するための縁組意思があるとはいえない(すなわち,養子は相続人にならない【遺産分割対象者とならない】)のではないかと争われたものです。

すなわち,争点は,民法上の養子といえるかどうかであり,相続税法上の基礎控除対象者たる養子といえるかどうかではありません。

この判例は,相続税法上の基礎控除対象者たる養子の要件については全く問題としていませんので,同判例を根拠として,「最高裁で節税目的の養子縁組が認められたので自分も養子を増やして節税したい。」と考えることは意味のないことなのです。

補足

そればかりか,法律上は,税務署長は,民法上・相続税法上の養子の概念に関係なく,養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合と判断した場合には,当該養子の数を当該相続人の数に算入しないで相続税の課税価格を計算できるとされていますので(相続税法63条),相続税の節税を目的として養子をとるのであればいたずらに数を増やすのではなく,不自然ではない形での養子縁組をとるべきですね。

わかっている人には当たり前すぎる相続税に関するトピックでした。



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