従前,労働基準法にいう労働時間は,原則として日単位で計算するのであり,週単位・月単位・年単位ではないということを説明しました。
本稿では,この日単位の計算についてより具体化し,1日あたりの労働時間をどのようにとらえるのかについて,実社会においてよく見られる労働時間切り捨ての合法性の検討を基礎として説明したいと思います。
労働契約上よく見られる切り捨て時間
世間一般における労働契約を見てみると,1日の労働時間として15分単位,30分単位として計算し,それ以下の時間は切り捨てとするという契約内容となっていることが散見されます。
散見されるどころが,大手企業の正社員の場合を除くと,ほとんどこの切り捨て時間がなされているのではないかと思われる位蔓延しているとも思えます。
この場合,例えば,午前9時から午後5時までの勤務とされている場合に,午後5時10分に退勤したとして,この午後5時から午後5時10分までの10分間の労働時間について,労働時間に計上せず,その間の給与の支払いをしないという取り決めとなります。
勤務先会社側から見ると,単に支払うべき給与額をできるだけ低く抑えたいという理由のほか,1分単位で計算をすると計算が煩雑になって面倒であるといった理由などから,この時間切り捨てがなされている場合があります。
労働者側からしても,法律を知らない場合のみならず,たった10分くらい仕方がないかとか,わずかな残業代請求をして出世に響いても困るからなどといった理由で,なんとなくこの時間切り捨てが受け入れられている風潮も見られます。
1日の労働時間の考え方(労働契約上よく見られる切り捨て時間の違法性)
しかし,法律上は,このような労働時間の切り捨ては認められていません。
労働時間とは,労働者が使用者の指揮監督ないし指揮命令下にある時間をいいます(最判平成12年3月9日・労判778号11頁【三菱重工業長崎造船所事件】)。
1分,1秒であっても,使用者の指揮監督下にある限り,その時間は使用者のために使用されているのですから,労働時間であり,その対価を支払わなければなりません(使用者の指揮命令下にある限り不活動仮眠時間であっても労働時間と扱われます。)。
そのため,1日の労働時間については,本来は秒単位で計算しなければならないはずです。
もっとも,労働時間を記録する手段であるタイムカード等では秒単位の記録はなされず,せいぜい分単位での記録がされることが一般的といえますので,1日の労働時間は,事実上,分単位で計算することになります。
その結果,時間の切り捨てがなされた場合には,秒単位・分単位で労働時間が積み上がり,そこに対して賃金の支払いがなされていないことになりますので,賃金の未払いとなるのです。
繰り返しますが,勤務先において単位を決めて,それ以下の時間を切り捨てて計算することは違法です。
ご自身の賃金に疑問を持たれた方は,お近くの弁護士に相談されることをお勧めいたします。