職務質問は法律上任意のはずなのに事実上強制される理由

これまでに職務質問を受けたことはありますか。

職務質問というのは,警察官に,「お兄さん,ちょっといいですか?」と声をかけられる,あれのことです。

以下,なぜ職務質問を受けるか,職務質問は拒絶できるのかについて説明します。

職務質問の法的性質

職務質問は,警察官が,異常な挙動等から,何らかの犯罪を犯そうとしている,犯罪を犯した又は犯罪が行われようとしていることを知っていると思われる者に対して行う質問であるとされています(警察官職務執行法2条1項)。

職務質問は,警察官が,何らかの犯罪に関与していそうだと判断した場合に,その者に対して行うのです。

すなわち,警察官から職務質問を受けたということは,その警察官から,何らかの犯罪に関与しているのではないかとの疑いをもたれた=怪しいと思われたということです。

警察官職務執行法2条
1 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。
2 その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。
3 前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。
4 警察官は、刑事訴訟に関する法律により逮捕されている者については、その身体について凶器を所持しているかどうかを調べることができる。

職務質問が事実上強制される理由

もっとも,職務質問は,刑事手続きの一環ではなく,行政警察活動の一環にすぎないため(警察官職務執行法1条),そこに強制力はありません。

職務質問を,刑事訴訟法上の任意捜査の一環と考えている人がいますが,法的理解を誤っています。

警察官職務執行法1条
1 この法律は、警察官が警察法(昭和二十九年法律第百六十二号)に規定する個人の生命、身体及び財産の保護、犯罪の予防、公安の維持並びに他の法令の執行等の職権職務を忠実に遂行するために、必要な手段を定めることを目的とする。
2 この法律に規定する手段は、前項の目的のため必要な最小の限度において用いるべきものであつて、いやしくもその濫用にわたるようなことがあつてはならない。

職務質問は,犯罪の嫌疑すらない段階の事実確認にすぎないため,あくまでも行政活動であり,捜査活動ではありません。

そのため,法律の建前では,職務質問を求められても拒否できできるはずなのです。

警察官に,「ちょっと,お兄さん。」と言われても,「今,忙しいんで」といえば終わりのはずです。

ところが,実際はそうはいきません。

「今,忙しいんで」などと言おうものなら,逆に何か隠していると判断され,おそらく延々と追っかけてきます。

この点については,裁判例上も,職務質問の際,その程度に応じた有形力の行使を適法としていることから,避けて帰ろうとすると追いかけてきて,逃げようとすると肩をつかまれ,これをむりやり振り払うと公務執行妨害で逮捕されかねません。

その意味で,職務質問を拒否することは事実上不可能といえます。

もはや,法律上の規定に意味がないほどの強制力を有しているともいいうる職務質問ですが,実効性確保の観点からみると,やむを得ない点もあります。

明らかに怪しい人に対して声をかけても,拒否されただけで何もできないというのでは,犯罪予防や公共の安全の意味でもまったく意味を持たないからです。

人権保障と公共の利益が対立する難しい問題です。

余談(警察官の立場から)

余談ですが,職務質問を別の目線から見てみましょう。

我々にとっては,わずらわしい限りの職務質問ですが,これを行う側の警察官の立場から見てみると,見え方が変わってきます。

警察官の目線で見ると,怪しいと思った人に対して,自分から,あなた怪しいですよと声をかけに行くのです。

各都道府県警には,この職務質問について,仮想のセットを用いての技術習得プログラムがあったり,ベテラン警察官動向によるOJT指導があったりするそうですが,仕事とはいえ,実際にやれと言われると結構勇気いりますよね。

私だったら,絶対嫌です。

悪いことをしている人は,大抵抵抗します。

場合によったらナイフを取り出したり,大暴れしたりすることもあるはずです。

警察官からすると命がけです。

たまに警察官が刺されたりしたというニュースを耳にしたりします。

警察官からすると,このような危険を冒してまで,公共の安全を守っているのです。

頭が下がりますね。

以上から,どのみち事実上拒否できないことに加え,警察官の治安維持の努力に敬意を表して,今後職務質問を受けた場合には,素直に応じていただければと考えます(むしろ,素直に応じた方が,解放されるまでの時間も早くなります。)。

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