購入直後の自動車が交通事故に遭った場合でも新車買換え要求が認められない理由

新車を購入直後に交通事故被害に遭われた被害者の方が,加害者に対して新車への買い換えを要求してトラブルが発生することがよくあります。

新車購入直後に被害に遭うという気の毒な状況下ですので,心情的に同情する余地が大いにあるのですが,この新車要求は法律上認めることができません。

以下,新車買換え要求を認めることができない理由について説明します。

損害賠償の法律上の考え方とは

交通事故被害に遭った場合,被害者が,加害者に対してなす請求は,法律的に言うと,不法行為に基づく損害賠償請求です。

そして,この不法行為に基づく損害賠償の方法は金銭賠償によるとされていますので(民法722条1項,同417条),交通事故被害車両所有者が,加害者に対して被害車両に代わる新車を準備するよう請求することはできません。

次に,日本における不法行為に基づく損害賠償の範囲を検討するに,賠償の範囲は被害者が被った損害をできる限りなかったことにするところまでという制限が課されています。

いわば,マイナスをゼロにする(できる限りゼロに近づける)のが日本の損害賠償です。

日本の法律上,不法行為に基づく損害賠償において,マイナスをプラスにする(被害者に利益を残す)ことは認められません。(これを認めることを懲罰的損害賠償といい,アメリカなどでは採用されている法制度ですが,日本では採用されていません。)

新車で購入した自動車の価値低下について

以上を前提として,納車直後の自動車が交通事故被害に遭った場合に,新車要求が認められるかについて検討するため,次に,購入直後の車両の価値はいくらであるのかを検討します。

ディーラーから自動車を新車で購入する場合,当該自動車には,車両自体の価格に加え,自動車メーカーによる車両開発費,広告費,販売関係費等の各種付加費用が乗せられています。

そのため,新車を購入する場合には,購入者がこれら付加費用を負担することとなり,車両本体を製造するために要する価格よりも圧倒的に高額の支払いが必要となります。

そこで,ディーラーで購入する新車は,自動車本来の価格よりも高額なのです。

ところが,自動車は,購入者が乗った瞬間(もっと言えば,購入者に納車された瞬間)に中古品となります。

購入者による資金支払って不可費用を充当した結果,自動車メーカーが車両開発費,広告費,販売関係費等の回収を完了し,自動車と各種付加費用という関係性が終わります。

その結果,新車を購入した直後に当該自動車は中古車となって前記付加価値分の値下がりをするのです。はっきりとした数字は出せませんが,だいたい2割程度下がるイメージです。

当然にこの自動車が,中古車マーケットで新車購入価格で売れることはありません。

数字を出して具体的に説明すると,360万円の新車を買ったとして,その自動車は届いた瞬間に300万円程度の価値になるということです。

そして,普通自動車は6年,軽自動車はは4年とする法定耐用年数が設定されているため,日々猛烈な勢いでその価値が低下していきます。

正確な数字は違いますが誤りを恐れずに言うと,1年が365日ですので普通自動車は毎日2190分の1ずつ,軽自動車は毎日1460分の1ずつ価値が下がっていくイメージです。

以上のとおり,新車で購入した自動車は,納車直後に2割,その後毎日一定の割合でその価値が下がっていくのです。

新車とは購入されるまでの車両を言うのであり,納車された直後から中古車となるのです。

納車直後の事故で新車要求を認める余地がないこと

以上を前提として,普通乗用自動車を360万円で新車で購入し,納車されて1週間後に事故に遭った場合に新車買換え要求が出来るか考えてみましょう。

まず,前記のとおり,物理的に新車を準備させることは法律上できません。

そこで,新車相当額の請求ができるか考えるに,これもできません。

なぜなら,前記のとおり,納車直後に自動車の価値は2割程度下がって300万円程度となり,かつ1週間の経過により300分の1(6年×50週)程度,その価値が低減しているからです。
新車を購入した1週間後に遭った交通事故発生時点では,購入した普通乗用自動車の市場価値は、299万円(360万円-60万円-1万円)程度となっています。

この299万円の価値しかない自動車に,新車相当額の360万円の賠償をさせると,交通事故によって被害者に61万円もの利益をもたらすことになってしまうので,それは損害賠償ではありません。法律上あり得ない話です。

心情的には納得できないかもしれませんが,法律上,日本で交通事故被害者の新車買換え要求を認める余地はないのです。

新車要求にできるだけ近づけるために

以上に対し,古い裁判例を持ち出して,過去に新車要求を認めた事例があると主張して,強く新車要求をしてくる人がいますが,今日の裁判実務において,新車要求が認められる可能性はありません。

買ったばかりの新車について,新車購入額相当額の賠償を得ることはできませんので,無理筋の主張を抑えていただき,適切な賠償(修理代に加えて格落ち損請求(評価損請求)をすることは可能であり,購入後間もなければ認められる可能性が高いと思います。)での話し合いをしていただければと考えます。

疑問点があれば,お近くの弁護士にご相談ください。

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