視覚は,光線が,角膜・前房・瞳孔・水晶体・硝子体を通過して眼底の網膜上に倒立の実像を結び,それが視神経に伝えられて視索・外側膝状体・視放線を通って大脳後頭皮質の視中枢に達して生じます。
そのため,交通事故の衝撃によって眼球が損傷したり,あるいは視神経が損傷した場合,視力障害が発生することがあります。
以下,交通事故によって視力障害が生じた場合の後遺障害等級について見ていきましょう。
【目次(タップ可)】
視力障害とは
視力とは
視力とは,物体の色・形・位置等を視覚によって認知する能力をいいます。
視力の測定方法
(1)原則
視力は,原則として万国式試視力表によって測定します(自賠法施行令別表第二備考1)。学校等の視力検査で使われる「C」のマークの向きを当てる上図の検査です。
そして,視力には,裸眼視力と矯正視力とがあるところ,早見表に定められている視力は原則として矯正視力をいいます(自賠責施行令別表第二備考1)。
したがって,近視・遠視・乱視のように屈折異常のあるものについては,眼鏡又は1日8時間以上の連続装用が可能なコンタクトレンズで矯正した視力をもって,万国式試視力表を用いて視力測定が行われます。
(2)補足
万国式試視力表は,被験者の申告によってなされるものですので,恣意的な回答がなされているのではないかとの疑問が生じることがあります。
そこで,万国式試視力表による検査を補完する検査として電気生理学検査が行われることがあります。
この点,前記のとおり,視力障害の発生原因は,眼球に関するもの(眼球の異常)と視神経に関するものに大別でき,それぞれ検査方法が異なります。
眼球の検査方法としては,前眼部検査・中間透光体検査・眼底部検査などがあり,また視神経損傷の検査方法としては,網膜機能の状態の検査であるERG検査(網膜活動電位検査)・網膜から後頭葉に至る視路の異常の検査であるVEP検査(視覚誘発電位検査)等があります。
視力障害の後遺障害等級について
視力障害の等級認定方法
視力障害の後遺障害等級は,失明の有無と,視力低下の程度に応じて,その認定がなされます。
早見表
両眼に視力障害を残す場合,一眼ずつの等級を定めて併合の方法を用いるのではなく,等級表に掲げられた両目の視力障害の等級を適用します。
早見表については,以下のとおりです。
1級1号 | 両眼が失明したもの |
2級1号 | 一眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの |
2級2号 | 両眼の視力が0.02以下になったもの |
3級1号 | 一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの |
4級1号 | 両眼の視力が0.06以下になったもの |
5級1号 | 一眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの |
6級1号 | 両眼の視力が0.1以下になったもの |
7級1号 | 一眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの |
8級1号 | 一眼が失明し、又は一眼の視力が0.02以下になったもの |
9級1号 | 両眼の視力が0.6以下になったもの |
9級2号 | 一眼の視力が0.06以下になったもの |
10級1号 | 一眼の視力が0.1以下になったもの |
13級1号 | 一眼の視力が0.6以下になったもの |
もっとも,両眼についての等級が,重い方の一眼の等級よりも低い場合があり(例えば一眼が0.02,他眼が0.6の場合),この場合には,両眼の視力としてみれば別表第二9級1号に該当しますが,かく解すると,別表第二8級1号よりも軽くなってしまい妥当でありませんので,重い方の一眼のみによって等級を定め,別表第二8級1号に該当すると認定します。
失明とは
前記早見表にいう失明とは,眼球の亡失,又はようやく明暗が区別できる程度のものをいいます。
明暗の区別については,光覚弁(暗室にて眼の直前で証明を点滅させ明暗を弁別できる視力)・手動弁(眼の直前で手を左右に動かすのが識別できる視力で,視力になおせば明らかに0.01未満に相当。)で判断されます。