交通事故被害に遭い,不幸にも後遺障害が残ってしまった場合,加害者に対して,自賠責保険又は裁判所によって認定された後遺障害等級に応じて後遺障害慰謝料を請求できることはよく知られています。
もっとも,この後遺障害慰謝料が,同じ等級であっても,赤本(東京基準),緑本(大阪基準),青本で微妙に違っていることは意外に知られていません。
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交通事故損害賠償における後遺障害とは
一般的に,後遺障害という用語には,回復しない障害との意味を持つと考えられる方が多いと思いますが,交通事故損害賠償においては違う意味です。
交通事故による後遺障害とは,治療の効果が認められなくなったとき([症状固定]時)に身体に存する障害をいうと定義されている法概念です(自賠法施行令2条1項2号)。
以降,治療によってではなく,自然治癒力により後遺障害が緩和していくことはあり得ます。
その意味で,交通事故損害賠償所の後遺障害は,医学的概念ではなく,単なる法概念に過ぎず,その認定も主治医がするわけではないのです。
では,誰が被害者の後遺障害についての等級認定をするのでしょうか。
実務上は,素人が自賠責保険の後遺障害等級認定の判断をすることは困難であることから,裁判になる前は,損害保険料率算出機構という機関が,独占的に後遺障害等級認定を行っています。
もっとも,前記損害保険料率算出機構の等級認定には法的拘束力がないため,紛争がもつれて裁判になった場合には,被害者の後遺障害等級認定は,裁判官が行います(なお,裁判所は,すでになされた損害保険料率算出機構による等級認定を相当尊重しますので,同認定どおりの判決がなされることが圧倒的に多いですが,同認定と異なる判決がなされることも一定の割合で存在しています。)。
被害者本人の後遺障害慰謝料(裁判基準)
後遺障害等級ごとの基準額
損害保険料率算出機構又は裁判官によりなされた後遺障害等級認定に従って後遺障害慰謝料が算定されるのですが,その認定額は,以下のとおり定額化されており(裁判基準額),大きな争いが生じることはそれほど多くありません。
この点,緑本・赤本・青本について,等級ごとの基準額に微妙な差がある場合があるため,実務上,交通事故に慣れた弁護士は,都合の良い基準を選定して請求してくることもあります。
緑本基準 (大阪基準) | 赤本基準 (東京基準) | 青本基準 | |
1級 | 2800万円 | 2800万円 | 2700~3100万円 |
2級 | 2400万円 | 2370万円 | 2300~2700万円 |
3級 | 2000万円 | 1990万円 | 1800~2200万円 |
4級 | 1700万円 | 1670万円 | 1500~1800万円 |
5級 | 1400万円 | 1400万円 | 1300~1500万円 |
6級 | 1220万円 | 1180万円 | 1100~1300万円 |
7級 | 1030万円 | 1000万円 | 900~1100万円 |
8級 | 830万円 | 830万円 | 750~870万円 |
9級 | 670万円 | 690万円 | 600~700万円 |
10級 | 530万円 | 550万円 | 480~570万円 |
11級 | 400万円 | 420万円 | 360~430万円 |
12級 | 280万円 | 290万円 | 250~300万円 |
13級 | 180万円 | 180万円 | 160~190万円 |
14級 | 110万円 | 110万円 | 90~120万円 |
自賠責保険の14等級に至らない後遺障害があった場合
自賠責保険の最低等級である14等級に至らない後遺障害が残った場合であっても,残存する後遺障害の程度に応じて後遺障害慰謝料が認定される場合もあります。
近親者固有の慰謝料
前記被害者本人の後遺障害慰謝料には,本人の介護にあたる近親者の慰謝料を含むものとして扱われますが,被害者の後遺障害の程度が,後遺障害等級1級・2級といった重度のものである場合には,別途,近親者固有の後遺障害慰謝料を認めることもあります(最判昭和33年8月5日・民集12巻12号1901頁)。
この点,近親者慰謝料が認められる場合の,近親者慰謝料額は,近親者と被害者との関係,今後の介護状況,被害者本人に認められた慰謝料額等を総合考慮して定められます。
参考にして下さい。