交通事故被害に遭われた方が,加害者側保険会社の治療費立替払い(一括手続き)によって医療機関で治療を受けていた場合,一定の時期がくると保険会社担当者から,そろそろ症状固定時期ですので,治療費の一括手続きの打ち切りをしますと言われます。
一般の方は,保険会社が言ってくるこの症状固定の意味がわからないことが多いため,保険会社の言いなりとなってそんなものかと思ってなんとなく治療を終了するか,あるいは一方的な治療費の打ち切りに納得ができないと反論して交渉が紛糾する場合が多いと思われます。
そこで,以下,一般の方にもわかりやすいように,交通事故において人的被害を被られた方が必ず直面する,症状固定について,その概念から順に説明したいと思います。
【目次(タップ可)】
症状固定とは
まずは,症状固定という言葉について説明します。
保険会社から治療費の打ち切りの根拠として症状固定という言葉が出ることが多いため,症状固定を完治と同じ意味のようにとらえている方がおられますが,違います。
症状固定とは,医学上一般に承認された治療方法をもってしても,その効果が期待しえない状態であることを前提に,自然的経過によって到達すると認められる最終の状態をいうとされています。
簡単に言ってしまうと,それ以上医療機関に通院して治療を受けても症状の改善が期待できず,後は自然治癒に任せなければならない状態を症状固定と言っているのです。
事故による症状が消えたか否か(治ったか否か)は,全く問題とされておりません。
この点,症状固定は,交通事故損害賠償実務において,極めて大きな意味を持っています。
交通事故加害者側が負担すべき賠償費目が症状固定日を境に一変するからです。
症状固定日までの損害費目については,傷害分として,[治療関係費]・休業損害・入通院慰謝料等が損害費目となりますが,症状固定日以降の損害費目については,原則として後遺障害が残存した場合に限って,[後遺障害慰謝料]・[後遺障害逸失利益]が損害費目として認められるにとどまります。
すなわち,症状固定日以降は,原則として,医療機関に通院したとしても,加害者側に治療関係費等を請求することができなくなります。
そのため,この症状固定日の決定は極めて大きな意味を有し,その判断が問題となることが多いのです。
そこで,この症状固定日の最終判断権者が誰なのかもまた問題となります。
この点については,多くの方が勘違いをしています。弁護士でさえわかっていない人もいます。
交通事故損害賠償における症状固定とは純粋な法概念ですので,我が国における症状固定時期についての最終判断者は裁判官です。この点について,ネット上では,最終決定権者が医者であるかのような記載がなされている者が散見されますが,全て誤りです。
症状固定時期の決定権者は,被害者本人でも,主治医でもないのです(もっとも,裁判官は,主治医の見解については,相当程度尊重しますので,主治医の意見と裁判官の判断が一致することが多いですが。)。
もちろん,加害者側保険会社の担当者であるはずもありません。
被害者の方と加害者側とで円満に交渉が進んでいる限りにおいては,症状固定時期については両者の合意で決められますので特に問題とはなりませんが,両者がもめて法的紛争に発展した場合は,その決定は裁判官が行います。
加害者側保険会社の担当者が症状固定時期を決めるわけではありませんので,同担当者に治療費の一括手続きを打ち切られたとしても,治療を健康保険を使用しての健保診療に切り替えて治療を継続し,治療終了後,改めて加害者側保険会社に対して,自腹で支払った治療費も含めて損害賠償請求をすればいいだけです。
関連記事→交通事故被害者が加害者側保険会社から治療費の支払いを一方的に打ち切りされた場合の対処法
症状固定から後遺障害診断へ
交通事故被害者の方と医師が相談し,症状固定の判断をするとした場合,後遺障害の診断を求めない場合は,そのまま加害者側と示談交渉の話へと進みます。
他方,後遺障害の判断を求める場合には,自賠責保険に対して申請します。
自賠責保険に対して後遺障害診断を求める場合には,上図の医師に後遺障害診断書の作成を求めることとなります(なお,[歯牙欠損による後遺障害]診断の場合のみ別様式です。)。
後遺障害診断書には,上図の赤枠で囲った場所に主治医の考える症状固定日の記載がなされますが,前記のとおり,裁判官はこの判断には拘束されません。
自賠責保険に後遺障害等級認定を求めるためには,[被害者自身で行う被害者請求(16条請求)]と,加害者側保険会社に代行してもらう事前認定手続きとがあります。
以上が症状固定の基本的内容です。
余談ですが,たまに後遺障害診断を受けたら会社で不利に扱われたり,就職に不利ではないかと心配される方がおられますが,そんなことはありませんのでご安心ください。
例外的に症状固定後の治療費等を加害者側に請求出来る場合
症状固定となった場合,治療の効果がなくなっていますので,以降は医療機関に通院しても治療関係費を加害者側に請求できないのが原則です。
医療機関に通院してもしなくても変わらないのですから,被害者の意思によって通院したものを加害者側に負担させる理由がないからです。
関連記事→交通事故による怪我の治療にも健康保険は使えます(医者が言う「交通事故による治療には健康保険は使えません」との説明はほとんどが嘘)
もっとも,例外的に症状固定後の治療費を加害者側に請求できる場合があります。
それは,症状固定後も通院治療を受けなければ症状悪化が生じることが予想され,症状固定時の状態を維持するために,治療が必要とされる場合です。
通常の障害の場合には考えにくいですが,高度の高次脳機能障害や,高度麻痺による症状の進行が予想される場合などが考えられます。
以上が症状固定についての概略です。
疑問点がありましたら,一度弁護士にご相談ください。