一般の方も使える弁護士の示談交渉術!!感情的になっている相手方にいきなり本題の話をしてはいけない理由

弁護士は,他人間の紛争の間に立って解決の方向に導くことを主たる業務としていますので,必然的に紛争当事者と示談交渉をする機会が多くあります。

依頼者の代理人として,相手方と示談交渉をするということは,相手方からすると敵側の弁護士と話をすることになります。

必然的に,相手方は構えますので,示談交渉は難航します。弁護士が,相手方から口汚い言葉をかけられることもしょっちゅうです。

私は,保険会社の仕事をしていますので,特にこの傾向は顕著です。

私個人としては相手方本人と示談交渉をすることが嫌いではないため特に気にしていないのですが,相手方本人とのを苦手とする弁護士も多いと聞いていますので,感情的な行き違いのあることが多い案件における,相手方との効果的な示談交渉の方法について,一般の方でも使いやすいよう例を交えて説明したいと思います。

弁護士の交渉方法の基礎

示談交渉が得意でない又は経験の浅い弁護士のうまくいかない交渉術として一番多いのは,感情的なわだかまりがある相手方に対して,交渉の初期段階で法律上はこうなっているんだという理屈の説明をする場合です。

感情的なわだかまりがある相手方が,敵である加害者側の弁護士の話などまともに聞くはずがありませんので,こんなことをしても示談の話がまとまるはずがありません。

どちらの話が法的に正しいかなど,感情的なわだかまりを持っている相手方にとってはどうでもいい話だからです。

いくら法律的に正しい説明をしたとしても,相手方の心には響きません。

では,このような相手方と示談交渉をしなければならない場合には,どうすればいいのでしょうか。

この場合には,まずは,相手方がこちらの話を聞いてくれる状況を作ることから始めなければなりません。

こちらの話を聞いてもらうためにどうするかというと,まず相手方の言い分を余さず聞き取ることから始めます。事実主張のみならず,感情まで聞き取るのです。

相手方が,何に怒っているのか,どういう言い分を持っているのかを聞き取いた上で,まずはそこに共感を示さなければなりません。

すなわち,交渉の初期の段階では,弁護士は,法律論を振りかざして説明するなどといった行為をしてはならず,ひたすら起こっている相手方の怒りを吸い上げるのです。なお,この行為を我々の業界では,ガス抜きといいます。

このガス抜きの時間は人によって違いますので,短い人であれば5分程度で終わる場合もありますが,長い人(特に高齢の方に長い人が多い印象です。)だと何時間もかかる場合があります。

交渉が苦手な弁護士はこれができない(又は我慢できない)のです。

確かに,弁護士的に見れば,怒りにまかせて投げつけられる相手方からの暴言,法的に意味のない又は法的に誤った話を,長い時間聞くことは気分のいいものではありません。

しかし,これが事件を示談で解決するためには大切なことなのです。

法律論の話は,相手方の怒りを吸い上げ,そこに共感を示し,相手方がこちら側の話を聞いてくれるようになってから,その段になって初めて行うものです。

法律論の話を最初からしてはなりません。

迂遠なように見えますが,おそらくこの方法が最も早期の示談解決につながります。

私は,毎年何十人もの交通事故被害者の方と示談交渉をしていますが,おそらく間違いないと思います。

一旦怒りを吸い上げてガス抜きが行われた相手方は,結構な割合で,こちらの顔を立ててくれます。話を聞いてくれるようになります。

法律論の話,具体的な交渉を始めるのはその段になってからです。こちらの話を聞いてくれるまで相手の話を聞き取ってからが,示談交渉のスタートです。

示談交渉以外の交渉例(物販セールスを例として)

相手の話を聞くところから始めるのは,なにも示談交渉にとどまる話ではありません。ビジネスでも同じです。

物を売りたいセールスマンを例に説明します。

セールスマンが物を売りたいときに,売りたい商品の説明を繰り返し行ったとしても,たいていの場合は,その商品は売れません。

そこで,優秀なセールスマンは何をするかというと,お客さん(又はお客さん予備軍)の話を聞きだし,それと商品を結びつけるのです。

例えば,車を売りたいセールスマンがいたとします。

その場合に,お客さん予備軍に,その車の良さを延々説明してくる人がいますが,客からすると正直うざいだけです。

インターネットでなんでも調べることができるこのご時世に,胡散臭いセールスマンのセールストークで購入する商品を選択するなど,通常ありません。

そのため,優秀なセールスマンは,商品の売り込みなど絶対にしません。

優秀なセールスマンが,何をするかというと,お客さん予備軍の話を聞くのです。

具体的には,お客さん予備軍の方に対して,何人家族で,うち子供が何人で,何歳か,どういうところに行くことが多いのか,いまのっている車は何か,その車に対する不満は何か,どういう目的で車を探しているのか,予算はどれくらいか,購入決定権は誰がもっているかなどです。

セールスマンには,売りたい車があるに決まっているのですが,当面は,その車の紹介をしません。

そればかりか,お客さん予備軍の方に向かって,一緒にいい車を探しましょうなどと言ったりまでします。

そんなことをしては車が売れないのではないかと思われますが,そうではありません。

最初から最後まで自分の意思で決定できる人はそれほど多くありませんので,お客さん予備軍の方は,購入すべき車は何か迷っているのです。

そのため,迷っている間にお客さん予備軍の方の信頼を得てしまえば,どこかの段階でお客さん予備軍の方から,セールスマンに対して,どんな車がいいと思いますかなどという質問をしてきます。

この質問が来てからがセールス開始です。

それまでに聞き取った情報を,売りたい車につなげていくのです。

この段になってようやく,車の売り込みを開始します(もっとも,優秀なセールスマンは,売り込みと言っても,直接商品を押すのではなく,あくまでも客が自発的に選択をしたかのような体裁を整えます。)。

ここまでの話で,信頼を得られていれば,お客さん予備軍は,セールスマンの話を聞いてくれる状況となっていますので,とんとん拍子で商談が進みます。

優秀なセールスマンのセールスとはこういうものです。

優秀なセールスマンは,お客様予備軍が,こちらの話を聞いてくれるのを虎視眈々と待っているのです。

この信頼を得るまでの聞き取り作業ができない場合は成功率が低くなります。飛び込み営業の成功率が低いのはそのためです。

理屈は,弁護士の示談交渉と全く同じです。

おそらく,異性を口説く場合も同じだと思います。自分の自慢話をする人はモテません。異性の話を上手に聞き取り,そこに自分がマッチするんだということを当該異性に刷り込ませることができる人がモテるのです。

まとめ

以上,弁護士の示談交渉方法について,物販セールスの例も交えながら私見を述べてみました。

弁護士業は,タイムチャージよりも出来高報酬制であることが多いため,早く終われば終わるほど割がよい事件となります。

また,手早く示談で終わらせることができる仕事が早い弁護士との評価を受けることができれば,次の事件につながる可能性も高くなります。

そのため,事件を示談で終わらせられることができるか,訴訟まで行ってしまうかは弁護士業務の費用対効果に直結する問題ともなります。

示談交渉が得意でない又は経験の浅くて示談交渉がうまくいかないと感じておられる弁護士の方に参考にしていただければ幸いです。

この方法は,弁護士に限らず,怒っている相手方と話をする場合にはとても有用ですので,弁護士以外の方も参考にしていただけるのではないかと思います。

より良い方法,ご意見等があれば,ご教示ください。



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