道路交通法では,後続車両が先行車両を追い越してはならない場所を定めています。
追越し禁止場所です。
本稿では,追越しとはどういう走行態様をいうのかと,法が一律に追越しをしてはならないと定める追越し禁止場所について紹介します。
【目次(タップ可)】
追越しとは
追越しとは,先行車両と同じ車線を通行する後続車両が,先行車両の前に出ようとする走行態様をいいます(道路交通法2条21号)。
すなわち,追越しとは,①後続車両が進路変更,②後続車両が先行車両の側方通過,③後続車両が先行車両の前にでるという3段階にて完成されます。
なお,先行車両と異なる車線から先行車両の前に出る走行態様は追越しではなく「追抜き」として特別の法規制にはかかりませんので注意が必要です(追い抜きの場合には,先行車両を抜かす場合であれば直進走行時の,先行車両の前に進入する場合には進路変更時の法規制に服します。)。
追越し禁止場所
そして,道路交通法は,法律上,後続車両が先行車両を追越してはならない追越し禁止場所を定めています。
以下が,法律が定める追い越し禁止場所となります。
なお,追越し禁止は,追越し行為に伴う危険を防止するために進路変更・側方通過を禁止したものであり,先行車両が小さい・遅いものであるために見通しにさほど影響を与えない場合には禁止する必要がないため,先行車両が軽車両の場合には禁止場所に当たらないとされています(道路交通法30条柱書)。もっとも,軽車両が追越車両の場合には,この法規制に服します。
①追越し禁止の道路標識がある場所(道交法30条柱書)
追越し禁止を指定する道路標識は,追越しのための右側部分はみ出し禁止の道路標識に,追越し禁止の補助標識をつけただけのものであり,間違いやすいので注意が必要です(なぜ,こんなわかりにくい標識にしたのでしょう…)。
②道路の曲がり角附近(道交法30条1号)
道路の曲がり角とは,道路が直角域,これに近い急角度又は「く」の字型に曲がる場所をいいます。見通しがきく・きかないは問題とされません。
また,附近とは,追越しによって交通上の危険を伴うおそれがある範囲をいい,具体的には個別の道路状況によって判断され,概ね前後30m以内の場所をいうことが多いと思われます。
③上り坂の頂上付近(道交法30条1号)
上り坂とは,頂上付近において進路前方・左右の見通し状況が極端に不良となるために安全確認義務を確実に果たさせる必要がある場所をいい,具体的には個別の道路状況によって判断され,概ね7%程度の上り坂をいうことが多いと思われます。
④勾配の急な下り坂(道交法30条1号)
勾配の急な下り坂とは,車両が追越しのために加速進行することによって臨機応変な停車が困難になる程度の勾配を有する場所をいい,具体的には個別の道路状況によって判断され,概ね傾斜角度6度(10%)以上の下り坂をいうことが多いと思われます。
⑤車両通行帯の設けられていないトンネル(道交法30条2号)
トンネルの中は,トンネルの壁が運転者に対して圧迫感を与える場所と考えられており,そのためにトンネル内では追越しの途中で運転を誤ったり,互いに接触したり,側壁に衝突したりする危険が高いために,追越しが禁止されています。
⑥交差点・踏切・横断歩道・自転車通行帯内及びその手前の側端から30m以内の場所(道交法30条3号)
【おまけ:⑦黄色実線がある場合にこれを越える場合】
補足
なお,以上,追越し車両側に課される義務と禁止場所を紹介しましたが,他方で追越しをされる車両にも注意義務が課されます。
この被追越車両の注意義務については,別稿:後続車両に追い越される先行車両の法律上の注意義務(道路交通法27条)で紹介していますので,よろしければご参照ください。