交通事故被害車両が所有権留保付車両の場合の修理代請求権者が「所有者(ローン会社・リース会社)及び使用者(買主・ユーザー)」である理由

交通事故により車両が損傷した場合,車両の価値が修理代相当額低下しますので,修理代相当額を加害者に請求する必要があります。

この点,被害車両が,ローンで購入し所有権留保が付いている車両の場合(残価設定型クレジットを利用して購入した場合も同様です。),又はリース車両の場合には,車両の所有者として登録されているのはローン会社・リース会社であり,購入者・ユーザーは使用者として登録されているにすぎません。

このローン購入車両又はリース車両が交通事故に遭った場合,損傷した車両の修理代金について損害賠償請求権を有する人は所有者でしょうか?使用者でしょうか?

結論を先にいうと,交通事故被害車両が所有権留保付車両であった場合,修理代については,「所有者」のみならず「使用者」(ローンの場合は買主,リースの場合はユーザー)も請求権者となります(法律上は,所有者と使用者の請求権競合・連帯債権となり,いずれかが全額の賠償を受ければ,他方の請求権も消滅することになります。)。

以下,その理由を説明します。
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店舗・事務所建物に車両が突っ込んで来る交通事故被害に遭った場合の営業損害

交通事故は,必ずしも自動車,二輪車,自転車,歩行者の間において発生するわけではありません。

場合によっては,車両が,店舗や自宅に突っ込んでくることもあり得ます。

加害者が,交通事故により損壊された店舗・事務所自体の修理代の負担をしなければならないのは考えるまでもありません。

では,自動車等が店舗・事務所に突っ込んできたことにより,やむなく事業を休業しなければならなくなった場合(発生した交通事故によって店舗・事務所等が損傷して修理が必要となった場合等),営業を休止期間中の損害賠償はどのように扱われるでしょうか。 “店舗・事務所建物に車両が突っ込んで来る交通事故被害に遭った場合の営業損害” の続きを読む

【傭車代請求・休車損害請求】営業用車両が交通事故に遭った場合の間接損害について

トラック・バス・タクシーなどの営業用車両(緑ナンバー車両)が,交通事故に遭った場合,当該車両を修理又は買換えるまでの間,当該車両を使用して営業を行うことができなくなります。

この場合,運送事業者は,営業用車両の修理又は買換えのための期間,代車を使用して営業を継続することができません。

そこで,この営業用車両を営業使用できなくなったことによって生じる経済的不利益を填補するため,交通事故賠償上,休車損害又は庸車料(傭車代)が損害費目となりえます。

どういうことなのか,順に見ていきましょう。 “【傭車代請求・休車損害請求】営業用車両が交通事故に遭った場合の間接損害について” の続きを読む

交通事故被害車両に積載されていた積荷の損害賠償

交通事故により車両が損壊された際,その波及的効果により同車に積載していた積荷もまた損壊される場合があります。

この場合,交通事故被害者は,加害者に対して,この積荷の損害についても損害賠償請求ができるのでしょうか。 “交通事故被害車両に積載されていた積荷の損害賠償” の続きを読む

【工場代車】交通事故加害者が被害者使用の工場代車代の賠償義務を負わない理由

交通事故加害事故を起こした場合,被害者から,被害者運転車両の修理期間中,修理工場から工場代車を借りたので,その工場代車代を支払うようにと請求されることがあります。

もっとも,交通事故加害者は,交通事故被害者からの工場代車代支払請求に応じる必要はありません。

以下,その理由を説明します。 “【工場代車】交通事故加害者が被害者使用の工場代車代の賠償義務を負わない理由” の続きを読む

交通事故加害者が被害車両の時価額全額を支払った場合当該車両の所有権を取得する理由

交通事故を起こし100%の過失割合によるとされた場合であり,かつ被害車両が全損と評価された場合には,交通事故を起こした加害者が被害車両の全損時価額の全額の支払いをした場合には(なお,双方に過失がある場合に過失分のみ支払ったにすぎない事案は除きます。),当該加害者が,被害車両の所有権を取得します。

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【物損交通事故の際の慰謝料請求】物的損害に慰謝料認定がなされる場合とは

交通事故被害に遭って,物的損害が発生した場合,当該物的被害に伴って精神的損害を被ったとして,慰謝料請求をした場合,これが認められることはあるのでしょうか。

交通事故の被害者側から,車に愛着を持ち大事に乗ってきたのに修理代だけでは納得できないという主張がなされることがままありますので,このような主張が認められるのか問題となります。 “【物損交通事故の際の慰謝料請求】物的損害に慰謝料認定がなされる場合とは” の続きを読む

【全損時価額】交通事故被害車両が全損認定された場合の車両損害額が再調達価格の限度に制限される理由

交通事故被害に遭われた場合に,相手方保険会社担当者から,車両損害賠償額について,修理代より低い金額の提示がなされたことはありませんか。

この場合の多くは,交通事故被害に遭った被害車両が,相手方付保保険会社に全損認定されていることによります。

全損(物理的全損・経済的全損)とは

全損とは,被害車両が交通事故によって,物理的に修理不能となった場合(物理的全損)又は経済的に修理をすることが是認されない場合(経済的全損)をいうとされています(最二小判昭和49年4月15日,民集28巻3号385頁,交民集7巻2号275頁)。

一言でいうと,事故車両が修理不可能な場合と,修理代が車の価値より高い場合が全損です

なお,以上のほか,被害者の所有者においてその買替えをすることが社会通念上相当と認められるときも全損に含まれるとされていますが,(被害車両を買替えたことが社会通念上相当と認めうるがためには,フレーム等車体の本質的構造部分に重大な損傷の生じたことが客観的に求められることを要するとされています。),例外的な事例ですので,本稿での説明は割愛します。

被害車両が全損認定された場合の請求上限額

上限額が再調達価格の限度とされる理由

法律上,不法行為に基づく損害賠償の方法は金銭賠償によるとされていますので(民法722条1項,同417条),交通事故被害車両所有者が,加害者に対して代替車両を要求することはできません(新車要求も当然できません。)

そこで,被害車両についての車両損害賠償額の上限がいくらになるが問題となるのですが,被害車両が全損認定がされた場合,加害者に対して請求できる車両損害額は,事故車両の再調達費用が上限となります。

これは,物理的全損の場合のみならず,経済的全損の場合でも同様です。

物理的全損の場合は,修理ができませんので,請求額が事故車両の価格(時価額)であるということはわかりやすいと思いますが,この結論は,事故車両が経済的全損とされた場合でも同じです。

経済的全損の場合にも,修理代金ではなく,全損時価額の範囲に限定される理由は,物の価値を超える修理代を費やして,その修理代以下の価額しか有しない価値に戻すことには経済的合理性が認められないとされているからです。

再調達価格はどのように算定されるのか

車両損害上限額となる再調達費用とは,消費税相当額を含めた全損時価額(車両本体価格)と買替諸費用の合計額から事故車両の売却代金を引いたものをいいます。

再調達価格=(車両本体価格+消費税)+買替諸費用-車両売却価格

全損認定の場合の再調達価格算定のための各費目の考え方

①車両本体価格

一般に,全損時価額にいう車両本体価格は,当該「中古車が損傷を受けた場合,当該自動車の事故当時における取引価格は,原則として,これと同一の車種・年式・型・同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得し得るに要する価額によって定める」べきであるとされています(最二小判昭和49年4月15日,民集28巻3号385頁,交民集7巻2号275頁)。

すなわち,全損時価額の算定根拠となる車両本体価格は,中古車市場(マーケット)において,同等車両を取得する際に必要な額をいいます

もっとも,この中古車市場での再取得額算定の困難性から,実務ではオートガイド自動車価格月報(いわゆる,レッドブック)によることが多いと思われます。

これに対し,自動車保険会社から,車両本体価格につき,新車価格から減価償却をして,時価額算定をするなどと言われることがありますが,全く理由のない誤った申し出ですので,そのような申し出に応じる必要はありません。

理由は,以下の判例があるからです。

(全損時価額にいう車両本体価格)「を課税又は企業会計上の減価償却の方法である定率法又は定額法によって定めることは,加害者及び被害者がこれによることに異議がない等の特段の事情がない限り許されない(【最二小判昭和49年4月15日】,民集28巻3号385頁,交民集7巻2号275頁)。

また,既に法定耐用年数を経過した上,購入を10年以上経過してレッドブックにも時価額の記載がなされないような場合であっても,実務上は,被害車両について0円と評価するのではなく,使用価値を考慮して新車価格の1割程度の残存価値が認められると評価して損害認定することが一般的です。

なお,市場価格を算定できない場合(改造車等の場合)には,やむを得ず減価償却の方法をとることもあります。この例外的な場合については,別稿:改造車が交通事故被害に遭った場合,車両本体と改造パーツの全損時価額認定はどのように行うのかをご参照ください。

②消費税等

消費税については,肯定例・否定例のいずれも存在していますが,裁判実務ではこれを肯定するのが一般的です(肯定事例:①東京地判平成22年1月27日等),残存車検価値(肯定事例:①東京地判平成15年8月4日・交民集36巻4号1028頁,②東京地判平成14年9月9日・交民集35巻6号1780頁)。

③買替諸費用

買替諸費用については,別稿:交通事故被害車両が全損認定された場合に加害者側に請求できる買換諸費用についてにて詳しく紹介しておりますので,同稿をご参照ください。

④車両売却価格

文字通り,事故に遭った被害車両を売却して得られた金銭です。

自動車は,部品の塊ですので,一部の部品の不具合によって使用できなくなったとしても他の部品は再利用可能です。

そのため,全損認定されて廃車となった場合にも,部品売却のため一定額で売却可能なことが多いため,当該売却額については損害認定から控除する必要があります。

⑤その他

なお,被害車両を売却することなく廃車した場合には,廃車費用をどうするか問題となります。この点については肯定例・否定例のいずれも存在しています(肯定例:①東京地判平成15年8月4日・交民集36巻4号1028頁)。

余談(加害者が再調達費用の全額の支払いをすると)

なお,余談ですが,交通事故を起こし100%の過失割合によるとされた場合であり,かつ被害車両が全損と評価された場合には,交通事故を起こした加害者が被害車両の全損時価額の全額の支払いをした場合には(なお,双方に過失がある場合に過失分のみ支払ったにすぎない事案は除きます。),当該加害者が,被害車両の所有権を取得します。

その理由については,別稿:交通事故加害者が被害車両の時価額全額を支払った場合当該車両の所有権を取得する理由をご参照ください。