【裁定和解(民事訴訟法264条)】当事者双方が期日に出頭せずに裁判上の和解を成立させる方法の1つ

民事訴訟では,判決に寄ることなく訴訟上の和解によって事件を終了させることができます。

この訴訟上の和解は,通常当事者が期日に出頭して行われるものですが,当事者が期日に出頭することなく訴訟上の和解と同一の効力を生じさせる手続きがあります。

本稿では,訴訟上の和解の原則を踏まえつつ当事者が期日に出頭することなく訴訟上の和解と同一の効力を生じさせる手続きの概略を紹介し,かつ当事者双方が期日に出席することなく和解を成立することができる裁定和解(民事訴訟法265条)について簡単に説明をします。

訴訟上の和解の際の当事者出頭の要否

当事者「双方」出頭

民事訴訟手続きにおいては,裁判上の和解は,当事者「双方」が期日に出頭し,裁判官の面前で合意内容を口頭で陳述することによって成立させることを原則としています。

当事者「一方」が出頭

もっとも,この「双方」出頭を絶対条件とすると,一方当事者が遠隔地に居住しているような場合にまで双方の出頭を強制させることは妥当ではありません。

そこで,平成15年の民事訴訟法改正により,電話会議による弁論準備手続期日で訴訟上の和解を成立させることができるようになりました。

この点,電話会議による弁論準備手続は,一方当事者が出頭すれば開催できますので,これにより「一方」当事者が弁論準備手続に出頭することにより,裁判上の和解を成立させることができるようになりました。

当事者「双方とも出席なし」

当事者間に実質的に合意が成立しているにもかかわらず,当事者の双方が出頭できない事情があるために裁判上の和解が成立できないとすると,裁判手続きの遅滞が生じます(令和2年度に発生したコロナウイルスの蔓延により感染を防ぐために裁判期日が開かれなかった場合等を思い起こしてください。)。

そこで,法は,例外的に,当事者双方とも出席がなくとも裁判上の和解を成立させる方法を置いています。以下の3つです。この3つの詳細は,別稿民事裁判期日に出頭しないで訴訟上の和解と同じ効力を得る方法!に書いていますのでご参照下さい。

①簡易裁判所における金銭請求の場合:和解に代わる決定

②簡易裁判所での金銭請求以外・地方裁判所・高等裁判所の場合:調停に代わる決定(17条決定)

③裁定和解

本稿では,このうち,裁定和解の法構造と,手続きの流れについて簡単に説明します。

裁定和解についての民事訴訟法の構造

裁定和解の要件

①当事者双方が和解条項に服する旨を記載した書面申立て

②裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官が,当事者双方の意見を聴いて和解条項を定めて双方に告知

③当事者双方の告知受領

裁定和解の効果

裁判上の和解と同様の効果。

①民事訴訟法265条

1 裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官は、当事者の共同の申立てがあるときは、事件の解決のために適当な和解条項を定めることができる。
2 前項の申立ては、書面でしなければならない。この場合においては、その書面に同項の和解条項に服する旨を記載しなければならない。
3 第1項の規定による和解条項の定めは、口頭弁論等の期日における告知その他相当と認める方法による告知によってする。
4 当事者は、前項の告知前に限り、第1項の申立てを取り下げることができる。この場合においては、相手方の同意を得ることを要しない。
5 第三項の告知が当事者双方にされたときは、当事者間に和解が調ったものとみなす。

②民事訴訟規則163条

1 裁判所等は、法第265条(裁判所等が定める和解条項)第1項の規定により和解条項を定めようとするときは、当事者の意見を聴かなければならない。
2 法第265条第5項の規定により当事者間に和解が調ったものとみなされたときは、裁判所書記官は、当該和解を調書に記載しなければならない。
3 前項に規定する場合において、和解条項の定めを期日における告知以外の方法による告知によってしたときは、裁判所等は、裁判所書記官に調書を作成させるものとする。この場合においては、告知がされた旨及び告知の方法をも調書に記載しなければならない。

裁定和解の実務上の手続き

①当事者双方の裁定和解申立書提出

まず,原告が裁判所に対して,裁定和解申立書・送達申請書を裁判所に提出し(用紙は,裁判所からFAX又はチームズを使ってのダウンロードにて送られてくるのが一般的です。),同様に,被告も裁判所に対して裁定和解申立書を提出します。

なお,裁定和解申立書の申立て事項は,「上記当事者双方は,裁判所の定める和解条項に服することによって本件訴訟を解決することとしたので,民事訴訟法第265条第1項に基づき,裁判所が事件の解決のために適当な和解条項を定めるように申し立てる。」とするのが一般的です。

②裁判所から当事者双方への和解条項告知

当事者双方から前記申立書の申立てがあった後,裁判所から,当事者双方に和解条項の告知がなされます。

通常は,裁判所から両訴訟代理人事務所に和解条項がFAXされるのが一般的です。

③当事者双方の告知受領

裁判所から和解条項が届いた後,原告・被告の双方から裁判所に対して受領書を出す(FAXする)こととなり,この双方からの受領書が届いた時点で当事者間に和解が成立します。

これにより,和解調書が作成されますので,後の手続きは,通常の裁判上の和解の手続きと同様です。

“【裁定和解(民事訴訟法264条)】当事者双方が期日に出頭せずに裁判上の和解を成立させる方法の1つ” への3件の返信

  1. 東京で弁護士秘書(事務局)をしている町田と申します。
    とても分かりやすい記事に感動したので感想を送信させていただきます(お忙しいと思いますので無視してください)。
    このお仕事と,民事訴訟法は切っても切れない関係ですが,わかりづらく,弊所の弁護士も意外と知らない手続きが多くて頭を悩ませています。
    裁判所書記官とも電話等で条文を確認しながら,何条が適用されるから…などと一人で悶々とする日々ですが,とても分かりやすくまとめてくださっているので大変読みやすかったです。
    本当にありがとうございました。

  2. 分かりやすいコメント有難うございます。一点ご質問があります。最低和解の申立ては訴訟を提起してから行うのでしょうか?ご教示頂ければ幸いです。

  3. お世話になります。
    質問させてください。
    裁定和解は,一方(被告)が本人訴訟のときでも利用できますか?
    出来るとしたら,必要書類は?(実印+印鑑証明によるのでしょうか?)

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