刑事手続きの基礎的な流れを弁護士が解説(初学者のための刑事事件の概略とは)

我が国の刑事手続きは,捜査機関が犯罪があったと考えた場合に(捜査の端緒),被疑者を発見・保全した上で,証拠を収集し(捜査),検察官が裁判所に対して訴え提起し(公訴提起),裁判手続き(公判手続き)を経て,判決の言い渡しがなされ(判決),上訴があればさらに上級審で争われた後(上訴),判決の確定後に,刑の執行がなされる(刑の執行),というのが一連の流れです。

そして,これらの1つ1つの手続きについて,詳細な法律の規定が置かれています。

これらの手続きについては,どれ1つ省略して,刑の執行をすることは出来ません。その理由については,拙稿:弁護士はなぜ犯罪者を弁護するのかを参照ください。

では,以下,刑事手続きの概略を見ていきましょう。

捜査の端緒

捜査機関が,捜査を始める前提として,何らかの犯罪があったらしいというきっかけが必要です。このきっかけを捜査の端緒といいます。

捜査の端緒は,捜査機関側で発見することもあれば,他からもたらされる場合もあります。

代表的なものとしては,①職務質問,②所持品検査,③現行犯逮捕,④検視,⑤自首,⑥告訴,⑦告発,⑧被害届,⑨通報,⑩警ら(いわゆるパトロール)等が挙げられます。

捜査

捜査の意義

捜査の端緒によって,捜査機関が,犯罪行為があったらしいと考えた場合に,いよいよ捜査が始まります。

捜査は,捜査機関(警察・検察)が,公判を維持するために被疑者を発見・確保し,かつ証拠を収集・保全するために行われます。

捜査は1次的には警察が行い,必要であれば事件を検察に送って2次的に検察によって行われます。この警察から検察への事件(被疑者の身柄と証拠一式)の送付を「送致」といいます。

任意捜査の原則

捜査方法としては,任意捜査と強制捜査があり,任意捜査を基本とし,強制捜査を行う場合には原則として裁判所が発する令状が必要となります(任意捜査の原則)。

刑事訴訟法197条1項
捜査については,その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し,強制の処分は,この法律に特別の定のある場合でなければ,これをすることができない。

強制捜査

強制捜査は,国家権力の行使として,被対象者の意思に反して無理やりに行うことができるものですので,それによる人権侵害の程度は甚大です。

そこで,強制捜査には,2つの大きな歯止めがかけられています。

1つは,強制捜査は,国民の代表者により選ばれた国会議員により作成された法律に定められた方法に制限されるというものです(刑事訴訟法197条1項後段)。これを強制処分法定主義といいます。

もう1つは,強制処分を実行するに際しては,原則として,事前に裁判官による適法性・必要性の判断を経なければならないとするものです。これを令状主義といいます。

すなわち,強制捜査という強力な行政権の発動に対し,立法権(国会)及び司法権(裁判所)からのコントロールを働かそうという努力がなされているのです。

前記のとおり,強制捜査も公判に向けた準備活動ですので,その目的は被疑者の身体確保と,証拠の収集・保全の目的で行われます。

強制的に被疑者の身体を確保する手段として,逮捕・勾留があります。そして,逮捕・勾留後は,必然的に捜査機関による取調べが待ち受けています。

この点,強制的に身体拘束をなすことによる人権侵害の程度は甚大ですので,法律上,その上限期間の定めがなされ,厳格に制限されており,逮捕されてから起訴・不起訴の判断がなされるまでの身体拘束期間が23日間を超えることはできません

また,強制的な証拠の収集手段として,鑑定,検証,押収,捜索・差押え等があります。

公訴提起

捜査の結果,訴訟条件を具備し,かつ犯罪の嫌疑がある場合,通常,公訴提起がなされます。

公訴提起は,被疑事件を審理し,被疑者の有罪・無罪を判断するために,裁判所に訴え出る,訴追の意思表示です。

我が国では,公訴提起は,検察審査会という極めて例外的な場合を除いて,原則として,国家機関たる検察官しか公訴提起ができません(国家起訴独占主義,刑事訴訟法247条)。

他方で,検察官は,訴訟条件を具備し,犯罪の嫌疑がある場合であっても,起訴しないことができます(起訴弁護主義,刑事訴訟法248条)。

公判手続き

公訴提起がなされると,いよいよ刑事公判手続きが始まります。

公判手続きの概略は,大きく分けて,①冒頭手続き(本題に入る前の前提手続き),②証拠調べ手続き(検察官の主張事実が,証拠により証明できるかどうかを判断する手続き),③論告・弁論(検察官の意見と,弁護人の意見を,それぞれ述べる手続き,④判決(裁判所が判断を言い渡す手続き)の4つの手続きで成り立っています。

判決

公判手続きを経て,裁判官の心証が固まると,いよいよ裁判です。

なお,一般には,裁判というと,公判手続きをいうものと考えられているようですが,法律上は違います。裁判とは,裁判所又は裁判官の公権的な意思表示をいいます。

裁判の種類は,実体裁判である有罪判決・無罪判決,形式裁判である管轄違いの判決・免訴判決・公訴棄却判決・決定の5種類があり,通常の審理では,実体裁判である有罪判決又は無罪判決の言い渡しがなされます。

上訴・救済手続き

言い渡された未確定の裁判に対しては,14日以内であれば,上級裁判所に対して,是正を求める不服申し立てができます(刑事訴訟法373条)。

2審に是正を求めることを控訴,3審に是正を求めることを上告といい,あわせて上訴といわれます(その意味で,3回裁判を受ける機会があり,三審制がとられています。)。

上訴期間の経過により裁判が確定します。

判決が確定すると裁判手続きは終了するのですが,判決の確定後に事実認定の誤りが発見されたことを理由として再審が(刑事訴訟法435条),法令違反が発見されたことを理由として非常上告がなされることもあります(刑事訴訟法454条)。

刑の執行

裁判の確定後,裁判の執行がなされます。

裁判の執行は,原則として検察官が指揮して行いますが,死刑についてのみ,慎重を期して,法部大臣の執行命令を待ってから行われます(刑事訴訟法475条)。

以上が,刑事手続きの概略です。細かい各論点については,各リンク先ページにてご参照ください。

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