緊急自動車(パトカー・救急車・消防車等)と一般車両との交通事故の過失割合

緊急自動車と交通事故に遭った場合,一般車両との交通事故の場合とは異なる割合で過失の認定がなされます。

理由は,緊急自動車が出動しなければならない状況下は,その目的達成のための緊急性が極めて高い場合であるといえ,道路における危険防止との均衡を考慮した上で,一般の車両に優先させて緊急危機的状況を取り除く必要がある場合であるからです。

本稿では,緊急自動車との事故の場合の過失割合を検討するために,緊急自動車と認められる要件,緊急自動車の道路交通法上の位置づけ,緊急自動車との事故の場合の過失割合の順に検討していきます。

緊急自動車(緊急車両)の定義とは

緊急自動車とは,「消防用自動車、救急用自動車その他の政令で定める自動車で,当該緊急用務のため,政令で定めるところにより,運転中のものをいう」とされています(道路交通法39条1項)。なお,一般には緊急車両ということもありますが,法律上の文言としては緊急自動車といいますので,本稿でも緊急自動車の文言で統一します。

すなわち,道路交通法上は,緊急自動車として扱われるためには,①自動車の属性として,消防用・緊急用・道路交通法施行令13条で定める自動車で公安委員会が指定したもの(数が多いので,本稿での例示列挙は割愛します。)であること,②目的として,緊急用務のためであること,③運転方法として,政令の定める方法により運転中(原則として,サイレンを鳴らして赤色の警光灯をつける。道路交通法施行令14条)であることがその要件とされています。

そのため,単に救急車や消防車であるということだけで緊急自動車にあたるものではなく,緊急用の車両を,緊急の目的で,サイレンと警光灯で周囲に注意をうながしながら走行しているという各要件を満たして初めて道路交通法上の緊急自動車と認められるのです。

緊急自動車の道路交通法上の位置づけ

道路交通法上の緊急自動車と認められた場合,一定の特例が認められます。

また,周囲の一般車両に対して一定の義務を課されます。

その意味で,法律上,緊急自動車は一般車両に対して優先的地位を有することになります。

緊急自動車に認められる特例

緊急自動車には,以下の特例が認められています。

① 右側はみ出し通行可(道路交通法39条1項)

緊急自動車は,道路交通法17条5項に定める場合以外であっても,追い越しをするため等のやむを得ない必要があるときは,道路の右側部分にその全部又は一部をはみ出して通行することができます。

② 一時停止不要(道路交通法39条2項前段)

緊急自動車は,法令の規定により停止しなければならない場合(赤信号【道路交通法7条,道路交通法施行令2条1項】,歩道の手前【道路交通法17条2項】,踏切の直前【道路交通法33条1項】,横断歩道の直前【道路交通法38条1項】,[一時停止の道路標識がある場合【道路交通法43条】,点滅信号の赤色点滅側から交差点に進入する場合【道路交通法施行令2条1項】)]であっても,停止することを要しません。

③ その他各種規制の適用なし(道路交通法41条1項)

その他,緊急自動車には,通行止め等の進入に関する規制(道路交通法8条,同17条6項),左寄り通行規制(道路交通法18条),通行帯に関する規定(道路交通法20条1項,2項,同20条の2),[道路外に出る場合の通行方法の規制(道路交通法25条1項,2項)],転回禁止等の規制(道路交通法25条の2第2項),[進路変更禁止の規制(道路交通法34条1項,2項,4項,同35条1項)],横断歩道又はその付近の通行方法に関する規制(道路交通法38条1項前段,3項)の適用がありません。

④ 最高速度違反取締車両には最高速度の規制がない(道路交通法41条2項)

緊急自動車に対する周囲の一般車両の注意義務

また,道路交通法上,一般車両は,交差点又はその附近において緊急自動車が接近してきたときは,交差点を避け,かつ,道路の左側(一方通行となつている道路において左側に寄ることが緊急自動車の通行を妨げることとなる場合は右側。)に寄って一時停止しなければならない(道路交通法40条1項),交差点以外の場所で緊急自動車が接近してきたときは,道路の左側に寄って進路を譲らなければならない(道路交通法40条2項)と規定されています。

緊急自動車との事故の場合の基本的過失割合

以上のとおり,緊急自動車は,一般車両に対して優先的地位を有しているため,緊急自動車と一般車両との衝突事故の場合,通常は,一般車両に大きな過失を認めることとなります。

もっとも,緊急自動車であっても,道路交通法上の全ての規制が免除されることはありませんので,同車が交通事故があった場合には,その注意義務違反の程度に応じた過失負担が発生します。

信号機による交通規制の行われている交差点での出会頭事故

緊急自動車は,対面信号機が赤色表示であっても,法令の規定により停止しなければならない場所で停止せずに進行することができる場合にあたりますが,この場合には他の交通に注意して徐行すべき義務を負うため(道路交通法39条2項後段),緊急自動車にも一定の過失が生じえます。

①一般車両(青信号進入)80%:緊急自動車(赤信号進入)20%

別冊判例タイムズNo.38(全訂5版)【158図】参照

信号機による交通規制の行われていない交差点(一般車両側が優先道路の場合)での出会頭事故

この場合,緊急自動車の交差点通行時の徐行義務(道路交通法36条3項),交差点における他の車両に注意して安全な速度と方法で進行する義務は免除されませんので(道路交通法36条4項,同41条1項),緊急自動車にも一定の過失が生じえます。

①一般車両(優先道路進入)80%:緊急自動車(劣後道路進入)20%

別冊判例タイムズNo.38(全訂5版)【159図】参照

その他

前2項以外の態様の交通事故については,いまだ明確な基準が定められているとはいえませんので,前2項の基準や道路交通法の各種義務を基に,個別具体的に検討されることになります。

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